2014.09.16 書店の謎

お客様に元気をもらった。
書店員の感動接客体験

文: 「本の話」編集部

知っているようで知らない書店のことについて、全国各地の書店員さんが顔出しで回答する「10人の書店員に聞く<書店の謎>」。今回は、書店員さんの印象に残っている接客体験です。

 探している本が見つからなくて相談した書店員さんの対応が親身で心が温かくなったり、レジカウンターの内側の知的な雰囲気に憧れたり……そんな経験はありませんか? 今回は書店員さんとお客様の心温まる話から、ちょっと笑ってしまうお話まで。

今まででいちばん印象に残っている接客経験を聞きたいです!  嬉しそうに本を買っていく子供の笑顔とか微笑ましいエピソードはありますか?(大阪府 30代 男性)

 

戸木田直美(代官山蔦屋書店)

 ご注文いただいた本をきっかけに、お客様と同じ陶芸家が好きなんですよと言葉を交わし、その後たびたびお問い合わせをいただいていたお客様がいらっしゃいました。ある日、店舗を異動することになり、お客様にお伝えしたところ、最終出勤日にご自分で手づくりされた器をお持ちくださったのでした。その方とわたしが好きな陶芸家の作品のようなステキな器で、最初のきっかけを憶えてくださっていたことに、とても感激しました。

 

内田剛(三省堂書店神田神保町本店)

 レジで大量のコミック本に超高速でカバーかけをしていたら、目の前にいたお子さんに「すっげー」と感動されました。かれこれ20年も前の話ですから、彼はきっとどこかの書店員になっているはずです。

  うーん、書店員になっているかは分りませんが……、コミックは何十巻のシリーズをまとめ買いする方もいらっしゃいますから、素晴らしい高速技を見ることが出来たのではないでしょうか。次は、幼稚園児のお客様。ちょっと長いですが、最後まで読んで頂くと予想外の出来事が!

 

高橋佐和子(山下書店南行徳店)

 一番印象に残っている……たくさんありすぎて選べないです(笑)。エジプトからいらした方の話とか、時代小説好きのおばあちゃんに怒られて落ち込んだけど、その後文通したとか、1年半かけて声をかけてもらえるようになった女の子の話とか……でも、子どもの微笑ましいお話がご希望ということなので、現在所属しております、山下書店南行徳店での出来事をお話ししたいと思います。

高橋佐和子さんが作る山下書店南行徳店の児童書コーナー。「アナと雪の女王を10回観た店員が気づいてネットで調べてしまったびっくりトリビア~!!」などのポップが楽しい

 当店は2012年11月にオープンしました。元々同じ場所に他の書店があり、閉店ということだったので居抜きで出店したのです。やはり、地元を愛する方々はお店が変わったことに戸惑いを感じていて、まずは知ってもらうことが先決でした。一人一人の顔を覚えるのが苦手な私は、小さいノートに自分なりにお客様の顔を書いたり特徴を書いたりしています。その中の一人、現在、幼稚園生になった男の子のお話です。

 1年半前は、お母さんの後ろに隠れて声をかけてもだまったまま。走って逃げてしまう子でした。この子の声が聞きたい、その一心だったように思います。しつこくしつこくしつこく声をかけ続け、1年かけて「おねえちゃん」と言ってもらえました。天にも昇る気持ちとは、この事を言うのだと思った位嬉しかったです。しかし、まだ、続きがあるのです。

 バレンタインデーが近づいた男性にとっては心浮き立つ(?)日。男の子がいつものようにお母さんと買い物に来て、帰りがけ、レジの横にずっと立っていたので、空いた時間に「どうしたの?」と声をかけました。「ちょっとちょっと」と手招きし、しゃがめしゃがめと合図をします。目線の高さになると、一生懸命顔にかかる私の髪をどけようとするので、ゴミでもついているのかなと耳にかけた、その矢先!! 「ちゅっ」。おっと失敗か? もう一度「ちゅっ」。唾がべちょっとつきましたが、ほっぺにちゅうをしてくれたのです! 

 恥ずかしかったのかすぐ走って逃げてしまいましたが、私の顔は真っ赤っか。信じられない! すっごく嬉しい! でも唾は気になったので拭かせていただきました(笑)。初めての出来事に動揺し、一旦レジを離れさせてもらったくらいでした。あぁ、大人になっているんだなぁと親のような気持ちや恋人のようなドキドキや覚えてもらえたという実感と共に、幸せな時間を過ごしました。この日を私は「はじめてのちゅうの日♪」と呼んでいます☆

  男の子が大人になっても、甘酸っぱい記憶として残ることでしょう。本が好きな大人に育ってくれるといいですね。次は、ちょっと大人な(?)エピソードです。

 

筒井陽一(リブロ名古屋店)

 関西勤務時、某店で「なぜ今、私は君の店で、この過激な男性向け雑誌(以下過激誌)を買おうとしているのか」という理由をレジで延々語って下さったお客様の話。聞くに
・前回、君の店で買った過激誌は税込630円(消費税5%時代)だった。
・厚さとしては薄手だが内容は非常に良く、私は大変満足した。
・今回君の店で買う過激誌は税込1,260円。つまり前のに比べて値段は倍だ。
・前回と同じ位の薄手であるので、内容的には2倍の良さがあるに違いない。間違いない。「2倍や。2倍やな」。
 それも、満面の笑みを湛えながら……。私は爆笑してしまい半泣きになりながら、お会計を無事済ませた記憶があります。

 「書店は劇場に似ている」と書いた書店員さんがいらっしゃいます。書店では書店員だけでなく、本を書いた著者の考えや思いとも出会うことが出来ます。今日も全国の書店で、本を媒介に人と人が出会い、様々な物語が生まれていることでしょう。

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