書評

正真正銘、求道者の物語

文: 万城目 学 (作家)

『武士道セブンティーン』 (誉田哲也 著)

 この香織と早苗、性格をたとえるならば「火」と「水」、剣道の質も「動」に対し「静」といちいちが噛み合わない。しかし、それらが少しずつ、お互いの歯車をひと回り、ふた回り大きくしながら噛み合ってくる。仲間として、ライバルとして、竹刀(しない)を交わすことによって、迷いながらも、二人は自ら進むべき道を切り拓いていく。彼女たちはそれを、「あたしたちの剣道」もしくは「武士道(研究中)」と呼ぶ。多少、世間とはズレていながらも、道を求めんとするその真摯(しんし)な姿はどこまでも美しく、こちらはどうしたってジンと来てしまう。

 今作『武士道セブンティーン』において、香織と早苗は離ればなれになる。父親の仕事の都合で、福岡に転校した早苗は、地元の強豪福岡南高校の剣道部に編入し、香織とは遠く離れた地で、新しい剣道の洗礼を受ける。スポーツ勝利至上主義に染まった部の空気に、どうしてもなじむことができない早苗。一方、神奈川に残る香織は後輩を育てる、という新たな課題に直面する。

 環境の変化、人それぞれの価値観の相違から生じる、一筋縄ではいかぬ問題を前に、二人はそれぞれの武士道に答えを求める。だが、武士道と勇ましく口にしたところで、彼女たちはまだまだセブンティーン。「とか何とか言ってるけど、自分でもイマイチよくわかんないんだよね」と正直に認識しているところが何ともかわいらしい。

 迷いつつ、涙しつつ(これは主に早苗担当)、前へ進もうとする二人。前作を含め、この小説のすばらしいところは、二人の剣道に対する姿勢が、そのまま生き様として描かれている、ということだ。竹刀の構え方、面の打ち方、防御の仕方、それらの一つ一つが、彼女たちの生き方に直結している。それはまさしく「道」を歩む者の姿だ。今作において、二人は厳しい内面の戦いを挑まれる。昔とはずいぶんイメージは異なれど、これは正真正銘、求道者の物語なのだ。

 最後に、前作においては、断固早苗派を標榜していた私だが、今作を読み終え、香織支持派が俄然(がぜん)、勢いを得て、心の支持率過半数に迫りつつあることを、正直に告白しなければならない。

 特に本書203ページにおける、香織の外見に関する告白は衝撃的だった。つい笑ってしまった拍子に、香織嬢にすっと懐に入られ、したたかに胴を抜かれた。

 前作で早苗に一本奪われ、今作で香織に一本。計二本で私は見事に敗退したわけだ。

「ありがとうございました」

 と深々と一礼し、清々(すがすが)しい気持ちとともにページを閉じた次第である。

武士道セブンティーン
誉田哲也・著

定価:本体630円+税 発売日:2011年02月10日

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