青春を剣道にかける女子、あの『武士道』シリーズの「強さは力」剛の香織と「お気楽不動心」柔の早苗が帰ってきました! 高校卒業から6年、それぞれ道を歩き出した2人を待ち受けるのは――。最新作の刊行を記念して、3名の書店員の方に、このシリーズの魅力について熱く語っていただきました。
真髄が分かったもの同士の交流が深い
白井 男性の作家さんが書いているからなのか、早苗と香織がすごくさっぱりした付き合いをしているんですよね。途中、いざこざじゃないけど、すれ違いがあったとしても、ずっとお互いを大切なものとして好敵手としていく。
内田 二人の距離感がずっといいですよね。
白井 女性として、ああいう友達に恵まれるってすごいうらやましい。
勝間 ああいう友達、なかなかできないですよね。
白井 きれいな話かもしれないけど、中三ぐらいから大人になって結婚するまでの二人の女性をずっと追っていっていて、でも、現実にそういう女性って周りにいるだろうなって思いましたね。
内田 かけ離れたようなそういう異質な感じじゃなくて、身近に居そうな感じがするっていうのはある。だから違和感がないし。でも、いいな、こういう世界に憧れるなっていうのはあります。
白井 そうですよね。
勝間 早苗と、あとレナもいいですよね。香織とは別の方向から剣道に対してすごい一生懸命じゃないですか。いろんな練習をしていて。座頭市の真似とか普通剣道でやらないし、ああいうところが好きですね。
内田 今回、意外な登場人物を出しちゃうのもいいですね。キャラクター的にもすごくたってる。最初「えっ?」と思いましたけど、「外」からの目線があるから、より「内」が見えてくるっていうのはある。
勝間 そうですね。まさかここで。
内田 それはすごい今回のスパイスになってると思って。
勝間 僕、あの人好きですね。福岡南の監督。
白井 吉野先生。
勝間 吉野先生、好きですね。剣道に関して、相当危ない感じがする。『セブンティーン』の時、最初、ただの酔っ払いでしかなかったのが徐々に……。『エイティーン』でも活躍するし。
内田 そうだね。そう思う。
勝間 今回、香織との場面で、実は、みたいな描写があって。ちょっとかっこいいなって。
内田 かっこいいよね。その辺、真髄が分かったもの同士の交流みたいなのがあって深いですよね。
いい作品は自分の中に跳ね返ってくる
白井 私は師匠、玄明。多くを語らずして。
勝間 達人の域ですね。
内田 そう。あの妥協しないところもいいですよね。やっぱり道場は自分限りという。 香織を後継者として認めているのか認めてないのかよく分からないけど。
白井 そう。あえて白黒つけない。
内田 グレーな決着だって本文にも書いてありましたよね。それはなんか、すごい玄明らしさっていうかな。長生きしてほしいですね。
白井 そうですね。愛情を感じましたね。
内田 うんうん。厳しさの中にね。
勝間 メチャメチャ香織を好きな感じがしますよね。
白井 香織が継ぐって、たぶん相当うれしいと思う。
勝間 すごいうれしいけど、隠してるんじゃないですか。
白井 あと、香織を試してるみたいな。
勝間 香織が今回かなり大人になったっていうか、成長してますよね。芯は変わってないんですけど。みんなだんだんちょっとずつ成長していっている。香織が特に『ジェネレーション』でものすごく成長した。強さのイメージもどんどん研ぎ澄まされて、余計なものが落ちていっているような感じで。
白井 道場もこの子なら守っていってもらえるかな、みたいな、読んでいて安心感がありました。
内田 責任感を持って守らなきゃいけないものがはっきりしているから強くなれるというかね。なんかそういうものが、本当に短い期間で密度が濃く成長しているというのが分かるってすごいですよね。
白井 そうですよね。
内田 『武士道』のシリーズはそれぞれ完結しているっていう読後があったと思うんですよね。『エイティーン』以降の話は、それぞれの読者の中で想像というか、成長させるっていう。ところが、『ジェネレーション』の物語が出てきた、その驚きはありますよね。
勝間 でも、ちゃんとみんな自分の道を、武士道を貫いてましたよね。『ジェネレーション』の最後に、今度は伝えていくみたいなのがあったのがすごい良かったです。
内田 そうやって受け継がれていくのが武士道っていう貫かれた考えがあって、道場を守っていきたいと香織が思う。僕らもそれを応援したいと思うし、それが、自分の一番大事なものは何だろうとか、自分が一生涯かけて貫いていくものは何だろう、伝えていかなきゃいけないものは何だろう、自分にそういうものがあるかなとか、自分の中に跳ね返ってきました。いい作品って跳ね返ってくるんです。だから、すごくいい物語だなと思って。
白井 きれいな終わり方でした。読んできて良かったなって思います。
内田 かっこよかったですね。これを僕も伝えていくのが仕事なんだって、いい本と出会うと当たり前のことを思うんですよ。僕の仕事は、いい作品に出会ってそれを一人でも多くの人に伝えて繋げていくっていうことなんだ、っていうシンプルな思いが甦ってきます。そういった意味でも、ものすごくテンションがあがりますね。
勝間 あらためて自分の生き方を貫いていけてるかなっていうのは、読んで感じました。それを子どもに見せられるのかって。
白井 ストーリーの面白さだけじゃなくて、メッセージ性も感じられますよね。
内田 そう。伝わるものがあるんですよ。勝ち負けじゃなくてっていうのが、本当に奥深いですよね。大切に守るべきもののために体を張ってというところで、本当の意味での武士道を教えるっていうか。魂の部分に触れる感じがある。武士道とは死ぬべきものじゃなくて、やっぱり生きるためのものっていうか。そういう本当にシンプルなメッセージが貫かれていて、ストーリーも本当に面白く入ってくる。
白井 剣道ってこんなに奥深いんだって思いました。
流行なくずっと読み継がれる物語
内田 また、セリフがすごくいいですよね。検索したら、「誉田哲也 武士道シリーズ 名言」とかなんか検索ワードで出てくるぐらい。フレーズに惚れる人が多いんだなと思いました。
勝間 そうですよね。
内田 フレーズに惚れるっていうのが、言葉の力というんですかね。それも読んでいて思いました。「あ、かっこいい」っていうところがね。読んでいると必ずチェックするんです。ポップで使いやすいフレーズみたいな。
勝間 ありますね。
内田 ワンフレーズボーンと入れると、ポップからバッと攻めてくるものがあるので。
勝間 思い出した。『シックスティーン』の帯、「ンメアァァーッ」って書いてました、書いてました(笑)。
内田 それ、殺し文句だな。
白井 斬新でしたね。
内田 なんか僕個人的な意見で、誰も死なずに、気持ち良くなれるし、今一番読みたい本ってこういう本なんだっていうのが、『ジェネレーション』を読ませてもらって一番の感想です。「これだ、こういう本を読みたかったんだ、今」って。世間がすごく嫌な事件で騒がしくて、子どもを虐待したりとか、新幹線で焼身自殺したりとか、本当におかしなことがある中でも、やっぱりこういうところに救いがあるし、読みたい本、勧めたい本なんですよね。
白井 そうですね。こういう本は流行とかなくずっと読まれていくんでしょうね。しかも一冊勧めれば四冊買ってもらえる。
内田 シリーズとしてどうぞ、っていう感じで。
勝間 セット販売も出るかもしれないですね。
白井 ああ、いいですね。
勝間 箱入り。
内田 『ジェネレーション』は取りあえず単行本だから、既刊の文庫三冊をじゃあ、これだけ箱にする?
勝間 で、特別付録しない?
内田 いいね。
勝間 あ、般若の?
白井 般若の(笑)
勝間 世代を越えてずっと変わらず、勧めたいですね。
白井 剣道をやってない人にも勧めたいですよね。もしも敬遠しているなら。
勝間 でも、これ中学生ぐらいの子が読んだら、絶対高校の時に剣道部に入ったりしますよ。
白井 剣道の見方も変わりますよね。
内田 絶対そう。この面白みっていうかな、勝敗の面白さと、その背景にすごく影響されると思います。
(二〇一五年七月七日 文藝春秋にて)