- 2022.12.28
- インタビュー・対談
美しく、狂暴なまでに一途なダークヒロイン。その純愛のはじまりは――『妖の絆』(誉田哲也)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
生血を飲み、闇に生きる不老の存在・闇神(やがみ)である紅鈴と、時代を超えて共に過ごす欣治。『妖の華』『妖の掟』に続く第3弾は二人の出会いの物語だ。
「もともと『華』の原型には、江戸時代の二人の2日間を書いていたんです。結局そこは切り離し、現代ものとして仕上げてデビュー作となったわけですが、江戸の場面も鮮明にずっと頭の中に残っていました。それを20年越しに小説にしていくのは、昔の映画を最新技術でデジタル・リマスタリングするようで面白かったですね」
闇神となって200年を経た紅鈴は、気まぐれに寄った寺で少年・欣治を助ける。母を吉原に売られ、妹は餓死した。恨みの塊となった欣治の「俺を鬼にしてくれ」という哀願が、孤独に慣れたはずの紅鈴の心を衝き動かす。
「江戸ものは『吉原暗黒譚』以来でしたが、時代的に使える言葉かいちいち調べて書いたり、やっぱり手間も時間もかかりますね。裏長屋ってどういう構造か、上を見たら天井材は張ってあるのか、どんな着物か髪型か……。古地図と現状を重ねて表示できるソフトを使って、吉原の規模や宿場の位置関係を掴んだり。ただ、考証こそ大変でも、江戸を書くほどに、現代と地続きだなと感じます。紅鈴が通ったら『いい女だな』とつい目で追うとか、人間の欲や感情は、時代背景が違っても変わらないものでしょうから」
緻密に作り上げられた江戸を舞台に活き活きと暴れまわる紅鈴。廓抜けでは同心をなぎ倒し、賊の首を引っこ抜いては齧りつく、繰り広げられるバイオレンスはいっそ爽快だ。
「科学も警察もない時代なので、無敵っぷりが凄いんですよね。夜でも明るい現代と違って闇に沈む時間が長いのも闇神には有利だし。ただし、人間の生活時間も短くて暮れ六つには終わり。自分のいる社会の文化や遊びに興味がある紅鈴にとって、その点は現代より退屈でしょうね。紅鈴は“人間なんてつまらない”とそっぽを向きながら、愛しいとも思っています。だから人里を離れないし、欣治と共に行くことを選ぶ理由もそこにある」
人を“鬼にする”方法とは、執拗に紅鈴を追ってくる一族の正体は、闇神の弱点とは――。シリーズ原点にふさわしく、『華』『掟』へと繋がる伏線が張り巡らされている。
「3作は時系列を遡る形になりましたが、紅鈴についてはまだ書いていない部分まですべて決まっています……というか自分の中に“史実”があって、それを書き起こす感覚です。次なる物語が過去か未来かは未定ですが、〈妖〉の歴史はまだまだ続きますよ」
ほんだてつや 1969年東京都生まれ。『ストロベリーナイト』に始まる〈姫川玲子シリーズ〉で人気を博す。著書に『背中の蜘蛛』『フェイクフィクション』などがある。
誉田哲也さんご自身による『妖の絆』『妖の掟』の朗読はこちらからお聴きいただだけます。