- 2006.08.20
- インタビュー・対談
全ては読者の楽しみのために
「本の話」編集部
『数学的にありえない』 (アダム・ファウアー 著/矢口誠 訳)
出典 : #本の話
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『ダ・ヴィンチ・コード』の拓いた知的サスペンスの分野に新たに生まれた傑作――アメリカの出版界で話題を呼んだアダム・ファウアーのデビュー長篇『数学的にありえない』が日本でも刊行される。
過去に前例のない「物語のアクロバット」を仕込んだ、まさにノンストップ・サスペンスの名にふさわしいスピーディな作品だが、随所にちりばめられた数学や物理学のトリビアが知的好奇心をこころよく刺激してくれる。
「昔から数字には強かったんです。大学でも統計学を専攻したので、世界を数字と確率で捉える癖がついています。
じつは子どもの頃、病気のために視力を失って、ほとんどの時間を病院ですごしていました。視力を回復する手術を繰り返し受けていたのです。算数の勉強も、計算問題と答えを朗読するレコードを聴いて学びました。そのせいか、とにかく暗算が得意になって、視力が戻って学校に通いはじめたときには、誰よりも数学に強かったですよ」
物語は、地下カジノでのポーカーのシーンで幕を開ける。主人公の天才数学者デイヴィッド・ケインは、次にくるだろう手札の確率を瞬時に暗算、それを武器に大博打を打つ。
「さすがにケインのように天才的な計算能力は、ぼくにはありません。けれど、ポーカーは好きでしたし、プレイするときには必ず、確率を意識していました。そういう意味で、主人公ケインには、ぼく自身が投影されているでしょう」
しかしケインはここ一番の大勝負で敗北を喫し、多額の借金を背負いこむことになる。神経の失調により職を失ったケインに返済のあてはなく、彼は窮地に追い込まれてゆく。
そんなケインの物語を軸に、北朝鮮に追われるCIA工作員や、謎の研究をつづける科学者、その研究を狙う政府機関、宝くじで巨額の賞金を当てた男のエピソードなどが並行して描かれ、物語はどんどん加速してゆく。そして後半に入るや、すべての物語がパズルのピースのようにひとつに組み合わさり、意想外の「真相」が明らかになる。
その卓抜なアイデアと、無数の伏線やエピソードを操る手際、周到なプロット構築は見事の一語に尽きる。
「ぼく自身、読者としていちばん注目するのはプロット、物語なのです。もちろん、登場人物が魅力的であるに越したことはありませんが、例えば、まずまずのプロットと最高のキャラクターを備えた小説と、最高のプロットとまずまずのキャラクターの小説のうち、どちらかを選べと言われれば、ぼくは後者をとります。
目が見えなかった子どもの頃、視覚障害者向けの朗読テープで、たくさんの本を聴きました。小学生にとって、病院暮らしはひどく気の滅入ることです。そんなとき、作家たちは、ぼくに逃避の手段を与えてくれた。物語こそが、唯一にして最大の娯楽だったんです。
父が好きだったアイザック・アシモフにはじまって、SFを山ほど読みました。ホラーやファンタジーも好きでしたね。周りの子どもはスポーツ界のスターに憧れていましたが、ぼくにとっては作家たちがヒーローで、なかでも最大のヒーローはスティーヴン・キングでした」
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