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柄刀一の復活を告げる<br />華麗なる不可能犯罪

柄刀一の復活を告げる
華麗なる不可能犯罪

文:千街 晶之

『密室の神話(ミサロジー)』 (柄刀一 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

誰もが探偵になり得る……繰り広げられる推理合戦

 著者は今までに幾人もの名探偵を創造してきた。本書にもそのうち一人の名前が出てきはするものの、実際の出番はない。名探偵が不在であるため、登場人物のうち誰が最初に真相に到達するのか、読者には全く予想できないのだ。被害者の家に下宿していたことがある小田桐理か、被害者の交際相手と目されていた眉村瞳か、推理好きな学生の山田広夢か、刑事の戸賀甚平か、余命僅かな新聞記者の稲村敬道か、在日中国人の中学生・洪友仁か。それとも、いま名前を挙げた以外の誰かが真相を暴くのか……。

 そして本書の特色は、登場人物の誰もが探偵になり得るばかりでなく、事件の直接の当事者ではない外部の人間も推理に参加する点だ。作中にはツイッターのまとめサイトや、2ちゃんねるをモデルにしたと思しき巨大掲示板が登場し、この不可能犯罪をめぐって活発な推理合戦が繰り広げられる。挙げ句の果てには、事件に興味を抱く若者たちによる現場見学会までが催されるありさまなのだ。

 しかしこれを、安易な現代風俗の取り入れと解釈してはならない(ヘイトスピーチによる人種差別や、密室事件と対極を成すかのような現代的な衝動犯罪といった要素についても同様だ)。これらの現代的な要素と、大時代とすら言える華麗なる不可能犯罪の配合にこそ、本書の本格ミステリとしての独自性があるのだから。密室を作った人物の発想自体は、本格ミステリ批評などではしばしばお目にかかるものであり、その意味での目新しさはない。だが、その発想を現代の世相と組み合わせた時、誕生したのはかくも独創的なミステリだったのである。柄刀一の復活を祝したい。

密室の神話
柄刀一・著

定価:本体1,800円+税 発売日:2014年10月29日

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