――いままで連作短編はありましたが、この「山桜記」のように登場人物も時代もばらばらというのは。
葉室 初めてですね。九州、そして武士の妻という漠然とした共通項はあっても、あとはそれぞれ独立した話ですね。この連載の話をいただいた時は、なんとなく大名と奥方の話を書いてみようかな、と思いました。当時は政略結婚とか個人の意思と関係なく、無理やり結婚させられた犠牲者、みたいなイメージで語られることが多かったですが、そんなことはないだろうと。夫婦としてのありようがちゃんとあるのではないかと。
「汐の恋文」や「ぎんぎんじょ」のころ、当時の女の人っていってみれば戦時下の女性のようで、旦那は海を渡って戦っているのに、自分は銃後ではないですが、それぞれの家を守っているんですね。で、名護屋にやってきた秀吉が女漁りを始めますが、唯々諾々と自分を差し出すのではなく、変装したりして結構抵抗してみせ、家が取り潰されたりして。私はそんな抵抗する女性たちを書いてみたいなぁと。家の犠牲になるのではなく、自分の足でしっかりと立っている。いかに家を保つかというと、ずいぶん保守的に聞こえますが、意外とアグレッシブな戦いだったんだろうな、と思います。女の戦は刀や槍をつかうのではなく、心で戦うのだと。「花の陰」の細川ガラシャの嫁として生き残った者が翻弄されるのではなく、人生を自分で選び取って、自分なりの花を咲かせる、そこに魅力を感じます。
――いまの女性は幸せになるために結婚しますが。
葉室 そう。当時の女性にとって結婚は大冒険なんですね。他家に嫁ぐということは、自ら家を新たに作っていくことなのですね。家の主はある意味女性なんですよ。
――長編と比べて短編は書くに際して違うものですか?
葉室 短編を書くのは大変、という人もおるようですが、私は基本的に短編は好きです。書きたいテーマを鮮明に打ち出せるし、精神的に楽です。だいたい読み返すのは短編です。長編は思い通りにいかないとかいろいろ悩んだりしてしまうんです。それは長編のほうが達成感はありますけど。なんか手応えとか切り口の多様性とかは短編の方がありますね。