書評

生まれ変わった老舗のグルメガイド

文: 覆面探偵+『東京いい店うまい店』編集部

『東京いい店うまい店 2013-14』 (文藝春秋 編)

大人のためのグルメガイドに

B 東京はものすごい勢いでインターナショナル化しているから、現地の人々が店を開くケースも増えてきた。中華料理なんてたぶん、すべての地方の料理が居ながらにして食べられるんじゃないかなあ。

A でも、ここ数年でいえば、中華は四川料理店が多くなった。日本人が食べていた麻婆豆腐と本場のものが違うことが話題になったのは、ほんの5年くらい前だと思うけど、いまやそんなことは当たり前。四川省で修業した料理人も増えて、どれだけ本場と同じ料理を出せるかの競争になっている。

B フレンチやイタリアンは地方料理を出す店が増えたよね。一部のグランメゾンを除いて、小さい店は特色を出さないと生き残れなくなっているからね。築地場外で魚介類専門のイタリアンを出したり、アルザス料理に特化したフレンチなど、各々のウリを表に出した店が客をつかんでいる。

A 面白いのは、彼らはマーケティングでやっているわけじゃないこと。バブルの頃に料理にあこがれてこの世界に入り、海外で修業してきたシェフたちがちょうど独立しはじめているんですよね。彼らにとってはフレンチもイタリアンも日常食だから、それをさらに進化させるにはどうしたらいいかを真剣に考えた結果、地方料理に特化した店を出したりしてる。

B 逆に考えると、バブルの頃にイタリアンやフレンチを憶えた世代がもう60代になっている。彼らは時間も余裕もあるから外食をずいぶんする。でも、これまでのオジサンたちは居酒屋とか小料理屋に行ってたけど、今はイタリアンやビストロにもけっこう集っている。そういう人たちをターゲットにした店も増えてきた。

A オジサンのほうが金を持ってるからね。居酒屋だって、日本酒に特化したり、ちょっとしゃれた料理を安く食べさせる店とか、ここ数年でいい店が増えました。そして、そういう店はかなり平均年齢が高い(笑)。

編集部 「いい店」の場合、想定読者は40代以降。その読者の方々に、接待や会食、慰労のときに使える店をきちんと紹介したいと思っています。

A それは賛成。われわれも、高くていい店も、見かけだけの店も知っている読者に本当にうまい店を紹介したいと思って頑張りました(笑)。

編集部 この本は1967年に初めて刊行されて以来、ずっと見開きに3軒を紹介するレイアウトでした。今回は大幅に変更し、1ページ全部を割く「いま食べるべき店」と、コラムで取り上げるレストランに分けました。

B いくら★印の評価があったとしても、何10軒も並んでいるだけだと、読者はどれを選んだらいいか迷ってしまう。今回の体裁なら、旬の店や新しい店は大きく取り上げる一方、これまでと料理も雰囲気も変わらず、相変わらず旨い店はコラムできちんと掬い上げるようにした。メリハリが効いて、わかりやすくなったと思うな。

A 「匿名取材、客観評価、文章評論」という、これまでの座標軸は変わってないですからね。

B グルメブーム以降、さまざまな店の評価方法が登場したけど、本書のいいところは、この3つをガイドラインに据えてぶれないところ。ミシュランは皿の上だけを評価対象とすると宣言しているけれど、「いい店」は料理はもっとも大きな要素だけれど、サービス、内装、歴史をふくめて総合評価しているよね。やはり皿だけでは、満足感はわからないよ。

A 「おいしいこと」は、単に料理だけの満足じゃないしね。店へのアプローチもあるし、その店に通った文化人たちの歴史を知っていることも満足感に影響する。そうした総合評価が、少なくとも「いい店」の独自色と言えるんじゃないでしょうか。

編集部 あと今回は、今年7月に『新東京いい店やれる店』を上梓したホイチョイ・プロダクションズに、「いい店うまい店」と「やれる店」の違いを特別寄稿していただきました。

B これ、面白かったよね。以前の「やれる店」を読んだ世代って、「いい店」の読者とほとんど重なっているから、読んでいて親近感があった。特に「いい店」では評価が高くても「やれない店」には笑ったなあ、確かにそうだなって。

A この数年は、いろんな意味で飲食業界が変わろうと意識的に努力し始めた時期だと思います。そこに新しいコンセプトで「いい店」が出たわけだから、賛否両論、波紋を呼ぶことができればいいんじゃないでしょうか。 

東京いい店うまい店 2013-14

文藝春秋・編

定価:1890円(税込) 発売日:2012年11月29日

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