はい、お草が帰ってまいりました。
新作第1話に目を通した編集の方々から毎回、「ああ、お草さんの世界に帰ってきたという感じ」と言われます。
私も冒頭を書いたその時、思います。「ああ、お草に帰ってきた」と。紅雲町珈琲屋こよみシリーズは、私にとってホームです。
ホームは故郷なのか。あるいは、ホームグラウンドなのか。いずれにしろ、単に安らぐのみの場所ではないことは確かです。最後の句点を打つその瞬間まで(実際には連載時、単行本化、文庫本化にいたるまで何回となく、時には編集サイドからさっさと出せと言われるくらい推敲するのですが)、筆者の静かな戦いは続きます。
丘陵から観音様が見下ろす紅雲町で、和食器とコーヒー豆の店「小蔵屋」を営む老女 杉浦草(すぎうらそう)の毎日も同様です。
古民家風の店舗と、コーヒーの無料の試飲、草のさっぱりめのサービスが評判なこの店は、様々な人を引きつける分、無理難題も降りかかります。でも、草は逃げることなく前向きに生きてゆきます。人生のピリオドを打つその時まで、という覚悟をもって。
草が生きる時代は、今より少し前。お気づきの方も多いと思いますが、2冊目『その日まで』以降は、親友の由紀乃が比較的元気だった頃です。人生のように終わりが必ず来るという約束の中にある物語、と私は考えています。終わりがあるからこそ、その時その時が大切になる。悪いことではありません。
さて、物語中のこの夏、草は亡き母に出会います。もちろん幽霊ではありません。心で出会うのです。コーヒーのように苦く、時に甘い物語を、今回もぜひお楽しみください。
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