2015.03.17 書評

「紅雲町珈琲屋こよみ」だけではない
吉永南央の新たな魅力がここにある!

文: 大矢 博子 (書評家)

『キッズタクシー』 (吉永南央 著)

 吉永南央は連作短編の名手である。

 ――と、長編の解説をこんな出だしにするのもどうかと思うが、ちゃんと意味があるのでしばしおつきあいのほどを。

 吉永南央の著作は本書で十一冊になるが、大部分が連作短編の形式をとっている。四冊を出した看板シリーズでありドラマ化もされる「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ(文藝春秋)をはじめ、ひとりの少年とその関係者の話からなる『Fの記憶』(角川書店)、外国人専用アパートが舞台の『ランタン灯る窓辺で』(創元推理文庫)がそうだ。天才版画家の作品を巡る『青い翅』(双葉社)は長編なのだが、それでも章ごとに語り手とモチーフが変わるので、体裁としては連作短編に近い。

 これらの作品には特徴がある。どれも一応は一話完結の体裁をとっていながら、全体を通してひとつの事件が、あるいはひとつのテーマが展開される形式になっているのである。一見無関係に思えた複数の事件が実はつながっていたんですよ――というのは連作ミステリの様式としてはありふれているが、吉永作品はそのタイプではない。むしろ全体として明らかにひとつの事件があるにもかかわらず、そこから派生する出来事を一話ごとに見せていると言った方がいい。

 回転寿司のようなものだ。次々と流れてくる寿司が各短編である。けれど寿司はどれも同じベルトコンベアに乗っている。寿司を描くことで、ベルトコンベアという全体の動きを書いているのである。

「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ二作目の『その日まで』(文春文庫)を例にとる。北関東の町でコーヒー豆と和食器の店・小蔵屋を経営する七十代の女性――お草さんが、彼女の店を訪れる人や近所の人との関係の中で、事件に巻き込まれたり人を助けたりというシリーズである。『その日まで』の各話では、巧く行かない家族の姿を描く話があったり、昔なじみが高校時代に出会った事件の真相を追ったり、近所に出来たライバル店とのいざこざが描かれたりする。これが寿司だ。けれど話を追うごとに、それらの事件のベースにはその地域とそこに住む人に降り掛かっている共通の問題があったことが次第に明らかになっていく。これがコンベアだ。

 つまり各話単体では成立しないモチーフを扱っているわけで、実態は長編なのである。吉永南央は、連作短編の形をとりながら実は長編を書いているのだ。なぜか。「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズは地方都市の商人の町に暮らす人々の生活と地縁の物語だ。いろんな人がそれぞれの生活を持っていて、その集合体が町なのだから、個々を積み重ねて見せる方がより地縁の意味が浮き彫りになる。だからこその連作短編形式なのである。これは『ランタン灯る窓辺で』にも言えることだ。

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キッズタクシー
吉永南央・著

定価:本体610円+税 発売日:2015年03月10日

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