
- 2015.04.01
- 特集
私がドラマ化するまで、誰も企画しないで!
4年を経て富司純子主演でついに完成
文:藤並 英樹 (NHKドラマ番組部ディレクター)
『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』 (吉永南央 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「こんな風に歳をとれたらいいなぁ」2011年にこの本を初めて読んだ時の率直な感想でした。
それから4年。私自身が、お草さんに“励まされる”ようにして、この度、76歳の溌剌としたおばあちゃん・杉浦草――お草さん――が活躍するテレビドラマを制作演出することになりました。主演は富司純子さん。この“原作”と“主演”との出会いが、私の人生に大きな影響を与えました。
この本との出会いは2011年秋。当時、私はNHK大阪放送局でテレビドラマの演出を始めたばかりの“ひよっこ”。その私にドラマの面白さを教えてくださったのが、この年の春まで放送していた『連続テレビ小説「てっぱん」』にご出演された富司純子さん。ヒロインのお婆ちゃん役として存在感を示されていた富司さんから、新米演出の私は叱咤激励されました。富司さんと番組の内容論や演出論についてお話をさせていただくうちに、私はテレビドラマ作りの面白さにのめり込み、番組終了後も富司さんと再び番組をご一緒したいなぁと考え続けていました。そんなときに、「76歳のおばあちゃんが活躍する日常の謎を追うミステリー」と謳うこの「紅雲町珈琲屋こよみ」に出会ったのです。

戦争を体験し、兄妹を亡くし、離婚もし、息子も幼くして失い、両親も看取り……でもひとりっきりになった今、最後に自分の夢にかけて古い雑貨店を改築し、新たな人生のスタートを切る。齢七十を過ぎて、いろいろなことを乗り越えて、身につけて生きてきたからこそ、生まれることばの説得力。
「戦争も貧乏もくぐり抜けて、長い間、生きてきたのだ。あちこち故障は当たり前」
「弱いと認めちゃったほうが楽なの。力を抜いて、少しは人に頼ったり、頼られたり。そうしていると、行き止まりじゃなくなる。自然といろんな道が見えてくるものよ」

過去の自分を振り返り、でもくよくよすることだけでなく、いまを活き活きと生きているお草さん。だからこそ心に響き、耳を傾けたくなる一言一言を読み、「人は誰でも歳をとるのだから、老いていくならこんな歳のとり方をしたい」「こんな先人の話を聞きたい」と思うようになりました。
いつまでも元気で、いつまでもお洒落――「こんなおばあちゃんになりたい!」と心から思えるお草さんの活躍を描くことで、お草さん世代には“活力”を、若者世代には“憧れ”を、そしてすべての視聴者に“生きる希望”を届けたい。そしてお草さん役は、優しさと温かさ、気丈さを併せ持つ富司純子さんに演じていただければ、すてきなドラマになるのではないかと考えました。