2018.03.19 インタビュー・対談

吉永南央インタビュー「インクと花の香り」で蘇る想い出

聞き手: 「オール讀物」編集部

『花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ』

『花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ』(吉永南央 著)

「紅雲町珈琲屋こよみ」は、コーヒー豆と和食器を商う「小蔵屋」の店主のおばあさん・お草さんが街の小さな謎を解決する人気シリーズ。これまでも、商店街、祭の山車といった身近な題材を通して、街の人びとの生活のなかで抱くわだかまりを、小さな解きとともに解きほぐす物語を描いて来た。六作目となる今回の題材は、「活版印刷」。

 お草が若い頃、別れた夫が仲間たちと設立を夢見た芸術村。その同志だった初之輔が書いた小説『香良須川』をモチーフにした懐かしの品が、お草の元へ送られてきた。彼女にとっては破綻した結婚生活や、芸術村のほろ苦い想い出ともがる『香良須川』だが、これを活字にして、初之輔へのサプライズプレゼントにしようと思い立つ。活版印刷の本のしおりを店の客から教わり、その良さを見直したお草は、小さな印刷会社「萬來印刷」に印刷を依頼する。

「以前、印刷所で見た活字をひとつひとつ拾う作業が、とても印象に残っていて、いつか題材にできればと考えていました。いま、活版印刷は、失われつつある技術なのでしょうけれど、若い人には、活字の味がかえって新鮮に感じられるみたいで、ひそかな人気なのだそうです。その受け取り方のギャップも、面白く感じました。また、時を超えて受け継がれたり、人の手を掛けて作られた物であるという点が、この物語を通してお草が大事にしている着物や器にも通じるものがあるのではと思いました」

「萬來印刷」の書類紛失騒動の解決にお草が一役買い、「小蔵屋」のレジの故障のピンチを「萬來印刷」の若社長が救ったのがきっかけで、二軒の付き合いが深まるなか、お草は、初老の印刷職人・晴秋の妻の死について知る。だが、晴秋たちからの話で、生前に花好きだった妻の人となりを聞いたお草は、彼女の死に疑問を抱く。そして、丁寧に過去を見つめ続けるお草が、出した結論とは……。

「執筆にあたってのメモに『想い出を明るく染める』とまず書きました。過去そのものを変えることは出来ませんが、想い出の感じ方を変えることは出来るんじゃないか? 今を楽しむことで、辛かったはずの過去を乗り越えられるかも知れないという希望を、描いてみたかった。お草も、失った息子や、亡くなった人たちと対話をしつつ、今の人々との生活を大切に、そして楽しく生きています。これからもお草さんを、人々の人生が紡いできた〈縦糸〉と、今の世界を生きる人たちの〈横糸〉を、織りなしてくれる存在として、書きつづけていきたいです」



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