インタビューほか

少年時代の体験が生んだ奇跡の“密室劇”。
冲方丁初の長篇ミステリー『十二人の死にたい子どもたち』

「別冊文藝春秋」編集部

『十二人の死にたい子どもたち』(冲方 丁 著)

『天地明察』や「マルドゥック」シリーズで知られる冲方丁が、待望のミステリーを上梓。構想十二年の力作には海外で暮らした少年時代の体験も色濃く滲み、本人とっても特別な一冊になったという。切なくも希望に満ちた本作に込めた想いを聞いた。

聴くことがすべての始まり

冲方 実はこれ、そのまんま僕の少年時代の体験がもとになっています。僕は四歳から十四歳まで海外で育ちました。最初がシンガポールで、次がネパールです。しかもインターナショナルスクールに通っていたので、僕だけが異質というのでもなく、クラスメイト全員属性がバラバラで、まるで毎日がサミット。

 統一ルールで運営されている集団ならそれに則ればいいわけで、話は簡単です。でも、全員信じる神様が違うような状況だと、相手のコードが読み取れないところから対話を始めなければならない。そうやって自分から踏み込まないと、ランチを一緒に食べる相手すら作れないですから。

 そういう集団で生活していると徐々に、価値観は共有できなくても、共存はできるんだと気づく。たとえばイスラム教徒のクラスメイトは、ラマダーンの時期になると体育の時間にマラソンしてても水はもちろん、唾すら飲み込まない。走り終えて喘ぐように倒れているのを見ると、「なんでそこまで?」と思う。すごい精神力だと感心はするけど、それって何のためなの、と正直思うわけです。でもそのうち、相手が信じているものへの興味とか敬意が湧いてくるんです。

 同一価値観の集団内の「常識」とはまた別の価値観があるんだということを認識していく。そうやって違いを知ると、今度は相手の言葉を聴くようになる。僕は何より、聴くことがすべての始まりだと思っていて、今回もずっとそれを意識しながら書いていました。

――本作では「話し合い」が繰り返し行われます。

冲方 聴いて、その次に行われるのは何か。それは対話だと思うんですよ。

 十二人の子どもたちは、最初は自分しか見えてない。どこか自己完結してしまっているんだけど、なんとなく自分と違う考え方もあるんだということを感じてはいる。彼らが必死で絞り出した言葉が僕の意図しないところまで拡がっていって、途中からそれぞれの子が勝手に語り出して、止まらなくなった(笑)。

――冲方さんはきわめて禁欲的にそのやりとりを見守っているように感じました。

冲方 子どもって、大人より視野も能力も限られていて、でもその中でなんとか成長していくのがうまいと思うんです。だからここで大人が介在してはいけないと、徹底して大人の視点は排除するようにしました。彼らが話したいことを、好きなように議論させようと。そしたら思いのほかみんな勝手に主導権を握り始めた。こっちのほうがオタオタしちゃうぐらいで(笑)。

 でも、そうやって対話を始めた彼らが、その行為を通して成長していくことは間違いないと思っていたけど、最終的にどんな選択をすることになるかは本当にわからなかった。 もしかしたら、結論を決めることなく小説を書き出せるようになったことも、二十年作家をやってきて手に入れた功績なのかもしれません。

――これまでは違ったんでしょうか。

冲方 僕は本来、完全にプロットを仕上げてから書くタイプで、見切り発車はしない質(たち)だったんですけど、アニメや漫画の仕事ではとりあえず第三話まで書いたら公開なんていうことがしばしばあって。さっき子どもたちの動機が対になっていると言いましたが、そんなふうにキャラクター同士を対にして、ぶつけ合いながら物語を膨らませていくというのは漫画の現場ではよくやる手法なんです。そういう小説以外の仕事の場で学んだことが、小説も進化させてくれたのかもしれません。

 実際、同じ時代を生きる人間、それも十二人の子どもを全員ちゃんと書き分けられるのかとか、会話中心のスタイルで読者を飽きさせずに展開していけるのかとか、不安はたくさんあったんです。それを、ほぼ会話のみで進んでいくゲームのシナリオとか、ものすごく尺(長さ)の制限が厳しいアニメの脚本とか、登場人物がやたら出てくる「マルドゥック」シリーズとか(笑)、それぞれの媒体や作品でありとあらゆる試行錯誤をしてきたことが効いて、書き上げることができた。実はこの作品内でも十二人の書き分けが冒頭とラストでは全然違うものになっていて、この作品にまた一段、僕の筆力をあげてもらったと思っています。

 

インタビュー完全版は、2016年10月20日に発売になる「別冊文藝春秋 電子版10号(通巻326号/2016年11月号)」でお楽しみください。

十二人の死にたい子どもたち
冲方 丁・著

定価:本体1,550円+税 発売日:2016年10月15日

詳しい内容はこちら  特設サイトはこちら

別冊文藝春秋 電子版10号(通巻326号/2016年11月号)

定価:Kindle版¥ 800
発売日:2016年10月20日

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