中村 皆、口ではいろんなことを言うんですよ。それを行動に移しているかどうかが問題です。私が若い頃の艦長も、「独創性を発揮しろ」と言っていました。私はそれを真に受けて、研究してあれこれ提案をしましたが、返ってきた言葉は、「何でそんなことをする必要があるんだ」「失敗したらどうするんだ」というものでした。口だけで冒険をしないのです。「安易な前例主義を排して」という台詞(せりふ)が、毎年「安易に」繰り返されるくらいですから。
笹 保身のために前例主義に陥ってしまっていることは、本書でもずいぶん書かれていますね。
中村 減点主義だから、結局は大過なく過ごそうとするわけです。たとえば船乗りにとって艦長職は憧れの配置のはずですが、自分が艦長のときに事故があったら出世に響くから、艦長の任期中、フネが長期間の修理に入っていたら内心「御の字」なんて奴までいます。
笹 じつは、私は昨年、海上自衛隊の遠洋練習航海に乗艦させていただきました。このとき幹部学校を卒業したばかりの実習幹部たちにアンケートを取ったのですが、自衛隊を志望した理由に「国防」を挙げたのは百数十名の中、わずか六名でした。
中村 私の防衛大時代の実感からしても、そんなものでしょう。信じ難いことに、防衛大は幹部自衛官養成機関だと知らずに入ってくる者もいるのです。すべり止めでしぶしぶ入校し、卒業したら民間企業に行くという連中のほうが主流。最初から自衛官を目指していた私など「お前バカじゃないか?」と先輩や同期に言われていましたからね。
笹 しかし、十代後半から二十代前半の自分を振り返ってみてもそうですが、この年代で「国防のため」と言えるほど明確に目的意識を持つのは難しいのではないかとも思います。部隊勤務を通して成熟し、徐々に意識が高まっていくことが多いのではないですか。
中村 いや、覚悟がないほうがおかしいと思います。戦前や外国の士官学校を見てください。医学部にだって医者になるつもりがない学生はまずいないでしょう。同じように、防衛大も自衛官になるという覚悟があるから入ってくるのが当たり前なんですよ。
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