笹 『自衛隊が世界一弱い38の理由』は、タイトルも衝撃的ですが、内容も十分に衝撃的でした。軍事に詳しくない人でも、自衛隊にはどういう制約があるか、そして如何に戦えないかを説明した尖閣諸島への中国軍侵攻のシミュレーションはわかりやすいものだと思います。自衛隊の編成や装備はもちろんのこと、用兵思想や作戦など外部の人間には見えにくい点に言及されていて、大変勉強になりました。
中村 私はもともと潜水艦乗りですから、専門分野は潜水艦戦術です。しかし今回は国際法や憲法などの法的問題から国家安全保障、陸海空自衛隊の問題点、シビリアン・コントロールなどできるだけ幅広く問題を捉えました。これまでは潜水艦関係の本ばかりで、社会的政治的観点から自衛隊を取り上げたのは初めてです。その意味で処女作だと思っています。
笹 中村さんは潜水艦の艦長をしていらっしゃいましたが、水上艦などと比べて艦長の権限が大きいですよね。単艦で活動するから、一国一城の主(あるじ)ということでしょうか。
中村 艦長だけでなく、当直責任者の若い哨戒長たちもそうですよ。裁量の幅が大きいから、能力さえあれば存分にそれを発揮することができる環境にあるんです。それに水上艦と戦ったら潜水艦が絶対に勝ちますからね。
笹 一方で臭いとか汚いとか狭いといった暗いイメージも。
中村 それほどじゃありませんが、人事上は不利です。だから私はよく言うんです。潜水艦乗りは、「バカじゃできない。利口はならない。中途半端じゃとてもだめ」。
笹 なるほど(笑)。ところで中村さんは、米海軍の原子力潜水艦相手に演習で一方的に勝つという大変な「戦果」をあげていらっしゃいますね。
中村 「失敗してもいいや」という開き直りがあったからできたことだと思っています。日本の潜水艦は電池で動く。人間と同じようなもので、ウォーキングやジョギング程度のスピードなら長時間動けますが、全力疾走したらすぐに息切れしてしまいます。一方の原子力潜水艦は、「原チャリ(それも2種)」程度のスピードが出ます。しかも燃料は無制限で静か。だから原潜には絶対勝てない、という思い込みがあったんです。でも、決してそんなことはなく、戦術次第です。ただし、人のやらないことをやるためには「失敗して怒られてもどうということはない」という開き直りも必要です。まあ、私は評判や成績も悪く、ドサ回りばかりの劣等生でしたから、失うものもなかったので、思い切ったことができました。部下にも恵まれましたしね。
-
『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。