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警察小説と「プライベート・アイ」

警察小説と「プライベート・アイ」

「本の話」編集部

『廃墟に乞う』 (佐々木譲 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

──「オール讀物」二〇〇九年六月号に掲載されている元道警釧路方面本部長の原田宏二さんとの対談で「いま警察小説を書くとしたら、警察官個人と警察組織の対立。ここに最大のドラマがある」と佐々木さんはおっしゃっています。『笑う警官』の佐伯シリーズなどはそのような図式に当てはまりますが、本作はそのような視点とは全く異なるところから生まれているんですね。

佐々木  私の中の位置づけとしては、『笑う警官』の佐伯シリーズは地方公務員小説、『制服捜査』の川久保篤シリーズは保安官小説、そして『廃墟に乞う』の仙道はプライベート・アイ小説です。本作では、事件の解決が主人公である仙道を幸福にしません。真相を暴(あば)くことで主人公は傷つき、打ちのめされます。一九九〇年代になって、アメリカの私立探偵小説も、そのような傾向になってきました。事件が解決して、ああよかったねと幸せになる小説が少なくなりました。『廃墟に乞う』はその流れにあると思っています。私立探偵を出すことが難しい日本のミステリー界で、私なりにこの分野の小説を書くことができました。ほら、こんな手があったでしょ、という気持ちです。

──仙道は、ある事件がきっかけで心に傷を負い、道警本部人事課から療養するようにいわれています。警察官のPTSDという設定は、佐々木さんの小説に度々出てきますね。

佐々木   実際に捜査に携わる人たちは、本当に大変だと思っています。犯人が自供したから、自宅で美味(おい)しく晩酌ができるなんて単純な話ではない。事件に深く、真剣に関われば、加害者や被害者が負った傷と同じだけのものを捜査員も負うことになると思います。だから、PTSDという設定が出てくるのでしょうね。

──警察官を単なるヒーローとして描くのではなく、一人の人間として見つめているところが、多くの読者から支持を受けているところなんだと改めて思いました。    さて、本作は六篇からなる連作短篇集です。いずれも北海道が舞台ですが、全て異なる街で、その土地特有の問題が事件につながっています。それぞれの短篇についてお聞きします。まず、「オージー好みの村」です。大勢のオーストラリア人が住んでいるニセコを舞台にした小説ですが、第一話をニセコにしたのは、何か理由はあるのですか。

佐々木  編集者と打合せをしていた場所が、ニセコだったんですね(笑)。小説でも書きましたが、本当にオーストラリア人は増えているんです。一昨年、打合せをしていた頃は、歩いている人たちの九割が白人。オージーが行ける店が多くなって、ウェイトレスも多少の英語を使えないと仕事にならない。札幌の求人誌には、「英語を使えるお仕事」として、ニセコ特集をよく組んでました。私がいたニセコの家のお隣も向かいもオージーで、一緒にお酒を飲むようなお付き合いをするようになりました。定住している人も多くなって、小学校の生徒の半分がオージーなんですよ。観光客が来るから、その人たち向けの商売をするために定住しているんですね。

廃墟に乞う
佐々木 譲・著

定価:1680円(税込) 発売日:2009年07月16日

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