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離れがたい「金色様」の物語

離れがたい「金色様」の物語

文:東 えりか (書評家)

『金色機械』 (恒川光太郎 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 このまったく関わりのなかった三者がある一件から交わり、お互いがお互いを必要な存在として大事にしていく。

 その三人に関わる世界もまた、大きな物語の一環となる。熊悟朗が拾われ育てられた極楽園とも鬼御殿とも言われる盗賊の巣窟に暮らす多くのならず者。鬼御殿を統べる金色様の主人、半藤家の人々。山の奥の「離れ」と呼ばれる部落で世捨て人のように暮らす老人たち。正義感の塊のような捕縛術の天才で遥香の夫となる柴本厳信。山賊に攫われ娼婦となった女たち。生まれ落ちてから死ぬまでにその身に起こった出来事を、この物語は、時間を、時空を、駆け上り、転げ落ち、飛び越えて複雑に編み込んでいく。その絡まった物語があるとき一瞬にほどけ、読者は得も言われぬ快感を得ることになる。

 歴史・時代小説はもともとファンタジーだと思っている。史実は史実として年表の中に残っているが、その時代に生きた人の心や事件の影響などは、現代人とは大きく異なっているだろう。天狗や幻術使いは当たり前、人を拐かす妖怪や怪物の存在を疑う人などいなかっただろう。体が真っ白だろうが金色だろうが、空を飛ぼうが声色を使おうが、民衆を助けてくれるなら、それは神様と同じ貴い存在。スーパーヒーローの出現を誰もが待ち望んでいる。

 かつて伝奇SFというジャンルの小説が一世を風靡した。半村良の『産霊山秘録』や『妖星伝』、山田風太郎の『魔界転生』や忍法帖シリーズ、30年も前から続き、未だに人気の衰えない夢枕獏『陰陽師』シリーズなど、時代背景を正確に捉えつつ、荒唐無稽に飛び交う物語は私の大好物である。

 テレビの子供向けドラマにもそういう作品があった。「仮面の忍者 赤影」「変身忍者 嵐」「怪傑ライオン丸」など、将軍とは何か、戦国の世とはどんな時代なのかを幼いなりに理解して楽しんでいた記憶がある。子どもがテレビの戦隊ものに夢中になるのはいまも昔も変わらないが、製作者の意図がいまよりはっきりしていたように思うのだ。

『金色機械』がもし映像化されることがあるとしたら、私はあの時代のテレビドラマのような番組を期待したい。金色様はきっと子供たちのアイドルになる。

 この作品に関する朝日新聞のインタビューで恒川光太郎はこう話している。

「もともと民話的な話が好きでしたが、原話がリアルだった頃までさかのぼると江戸時代にたどり着く。(中略)アンドロイドが江戸の風俗にどっぷりなじんで生活している設定も新鮮でしょう」

 確かに、何かの折に「ピコリ」とか「コピッ」とか音を出し、緑の光を点滅させる金色様は、スター・ウォーズに馴染んだ人なら、何かを髣髴とさせられずにはいられない。

 人は何かの命を奪いながら生きている。人ではないが人に寄り添って存在してきた金色様は、そのことを良いことでも悪いことでもなく、ありのままに受け入れている。人の命は自分より短い。だからこそ全身をかけて守ると誓う。

 テキモミカタモ、イズレハマジリアイ、ソノコラハムツミアイ、アラタナヨヲツクルデショウ

 そうして出来上がった世の中が今なのだ。

 物語は終わってしまうが金色様とは離れがたい。違う冒険をもう一度見せてくれないだろうか。いつの間にか金色様ファンになってしまった読者からの切ないお願いである。

金色機械
恒川光太郎・著

定価:本体900円+税 発売日:2016年05月10日

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