第一印象というか、直感というか、出会い頭の興奮はどんな時でも大事なものだと思う。特に小説の場合、面白い本というのは、たとえ棚差しであっても目に入ってくるものは私の好みである可能性が極めて高い。まるで本に呼び止められるかのようだ。『金色機械』はまさにそういう作品だった。
手に取り、まずは装幀を吟味する。恒川光太郎の小説は何冊も読んできた。単行本で445頁というのは一番長い作品だろう。いったい何を書いたのだ、という興味が俄然湧いてくる。買い求めて読みはじめてすぐに確信する。「これは大当たりだ」。次はどうなる? と先が気になり読むスピードがどんどん速くなっていく。一気呵成とはこのことだ。
本書は第67回日本推理作家協会賞受賞作である。日本推理作家協会という存在をご存じない方もいるかもしれない。この団体は1947年に江戸川乱歩が初代会長を務めた探偵作家クラブが大元となっている。2017年に創立70周年を迎えようとし、現在会員数700人弱。日本のエンターテイメント小説を書く作家の集合体と言ってもいいだろう。
その協会が年に一度、その年のミステリー小説と評論の最高作を決めるのが本賞である。ミステリーというと推理小説を連想するが、そればかりでなくSFやファンタジー、ホラーなども含めた広いジャンルを網羅していて、候補作も編集者や評論家たちが合議で決め、選考委員も一流の作家や評論家が務める、いわばプロフェッショナルが認める年間ベストの小説ということだ。
2013年度の選考委員は、井上夢人、北方謙三、真保裕一、田中芳樹、山前譲というそうそうたる面々だったが、議論白熱の選考会だったようだ。それは選評にも色濃く出ている。
いくら幅広いエンターテイメントの小説を対象にしているとはいえ、本作は時代小説がベースになったファンタジーに寄りすぎているのではないかという意見と、いやいや作家としての力量は一つ上であり、登場人物の成長譚としても秀逸であるという意見が拮抗したようだ。長い討議の末の受賞となった。
金色様という不死身で不思議な存在を中心に、一つの世界が出来上がり滅びゆくまでの物語。時代背景ははっきり書き込み、その上での幻想小説として受け止めた選考委員が多く、その解釈が難しかったのだと思う。
全員が認めているのは、小説の構成力が抜きんでており、描写力、発想のユニークさ。文章力の安定性は抜群で、どの作品より読んでいて楽しかったという評価は、作家にとって最高の褒め言葉だ。プロフェッショナルの先輩たちから贈られた何よりの勲章であると思う。そう、この作品は抜群に面白い。
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