インタビューほか

山下澄人×佐々木敦
カーソルは
たまたま“今”にある。

「本の話」編集部

『コルバトントリ』刊行記念イベントレポート

第150回芥川賞候補にもなった山下澄人さんの『コルバトントリ』。その刊行を記念し、デビュー当初からその作品を高く評価する批評家の佐々木敦さんをお招きしトーク&サイン会を催しました。インタビューの達人の技により、明らかになっていく山下さんのラジカルな芸術観を以下たっぷりとお楽しみください。

演劇と小説との関係

佐々木 このあたりで演劇のこともおうかがいしたいと思います。劇団FICTIONを主宰されていましたが、僕はそのお芝居を一度も観たことがないんですが、保坂さんから、すごいんだ、というお話をうかがったことがあります。芝居を観ていらした平凡社の方のすすめで小説を書かれたとのことですが、それまで小説的なものを書かれたことはなかったんですか。

山下 ないです。戯曲も30歳ではじめて書いたぐらいやから。もともとぼくは俳優なんで、自分が台本書くみたいなこと、夢にも思わなかったですね。俳優やりはじめた時は、ブルース・リーになりたい、みたいなノリですよね。ほんま、アホですよ。「埒外」みたいな人間です。

佐々木 FICTIONはどういう芝居をやっていたんですか。

山下 どういう芝居……観ている人はゲラゲラ笑ってましたよ。

佐々木 謎が深まるな(笑)。さっき、他人の経験を自分が話すときはもう自分の経験になっている、とおっしゃったじゃないですか。そもそも役者さんっていうのは、たとえば山下さんは山下さんなのに、ブルース・リーの役をやればブルース・リーでもある、ということになる訳ですよね。山下さんが役者でもあることと、自分と自分以外のだれかが混じる、一緒になる、というのはどこかでつながっているのでしょうか。

山下 なるほど。ああ、そうかもしれないですね。えっとあの、耳が聞こえないって言ってた人。

佐々木 佐村河内さん?

山下 あの人惜しいな、と思うんですよね。

佐々木 なにかのフリをする、ってことと関係あるんですか。

山下 そうかもしれない。あの人のやったことって、ただ「嘘ついてた」ってことで終っちゃった。人に曲かかせて、聞こえてたのに聞こえてない、って気をひいて。だけどそれって、ものすごいものになりかけてた、そう思うんですよね。もうちょいいったら芸術やで、って。嘘と紙一重みたいな気がするんですよ、重要なことは。嘘と言われて切って捨てられるものと紙一重だって。

佐々木 単純に騙された、というのとは違うレベルの話なのかもしれませんね。

 ところで、山下さんの小説がなにに似ているのか、とあらためて考えると、僕、認知症の人と話したことがあるんですが、実際にその人の頭の中で何が起きているのかは分からないけれど、いくつもの記憶が並立していて、今がいつか、自分が誰か、またここにいるのは自分の子供なのか配偶者なのか親なのかの区別がつかなくなっている。それになんだか似ているところがある。先ほど人生は決定的だという話になりましたけど、末期の目というのかな、人生の最後のところから、認識自体がだいぶゆるくなっていて、色々なことがちゃんと制御できなくなっている状態で見えることを書こうとすると、こうなるのかな、という気もしてきました。

山下 お墓の中から見たらなんでも面白いで、っていう感じはあります。

佐々木 僕や山下さんはせいぜい100年弱くらい生きて、死ぬわけですよね。そして普通、小説が描写するある1人の人間の人生とか、あるいは複数の人間の人生っていう時間は常に有限ですよね。でも山下さんは、その有限な時間の外側にあることのほうを実はやろうとしている感じがします。

山下 それはほんとうにそうです。有限前提みたいなのがすごく嫌なんです。

【次ページ】でもやはり感動してしまう

コルバトントリ
山下澄人・著

定価:1,300円+税 発売日:2014年02月10日

詳しい内容はこちら
<新刊を読む>陣野俊史「山下澄人の魔法」

シチュエーションズ
佐々木敦・著

定価:1,750円+税 発売日:2013年12月12日

詳しい内容はこちら
<新刊を読む>山田亮太「私はいま、なにをしないではいられないか」
[週刊文春WEB] 青山真治「ジャンルを越境し、3・11を越境する批評集」


 こちらもおすすめ
書評山下澄人の魔法(2014.03.13)
書評魂に飢餓を抱えた男女の「建国神話」(2014.02.27)
書評私はいま、なにをしないではいられないか(2013.12.17)