2014.04.17 インタビュー・対談

山下澄人×佐々木敦
カーソルは
たまたま“今”にある。

聞き手: 「本の話」編集部

『コルバトントリ』刊行記念イベントレポート

山下澄人×佐々木敦<br />カーソルは<br />たまたま“今”にある。

第150回芥川賞候補にもなった山下澄人さんの『コルバトントリ』。その刊行を記念し、デビュー当初からその作品を高く評価する批評家の佐々木敦さんをお招きしトーク&サイン会を催しました。インタビューの達人の技により、明らかになっていく山下さんのラジカルな芸術観を以下たっぷりとお楽しみください。

著者 山下澄人
1966年、兵庫県生まれ。富良野塾二期生。2012年、書き下ろし小説『緑のさる』(平凡社)で第34回野間文芸新人賞を受賞。他の著書は『ギッちょん』(文藝春秋)、『砂漠ダンス』(河出書房新社)。
ゲスト 佐々木敦
1964年、愛知県生まれ。批評家。音楽レーベルHEADZ主宰。早稲田大学文学学術院教授。著書に『小説家の饒舌』(メディア総合研究所)、『「批評」とは何か?』(メディア総合研究所)、『即興の解体/懐胎』(青土社)、『未知との遭遇』(筑摩書房)、『批評時空間』(新潮社)、『シチュエーションズ 「以後」をめぐって』(文藝春秋)などがある。

登場人物が死ぬと筆が止まる

佐々木 直接お目にかかるのは2度目ですね。昨年5月、僕が主催する「エクス・ポナイト」というイベントで初めてお会いしました。保坂和志さん、磯崎憲一郎さん、山下さんに来ていただいて1時間喋ってもらいましたが、山下さんが喋ったのは1割くらいでした。今日はうかがいたいことが沢山あります。

山下 よろしくお願いします。

佐々木 『緑のさる』が出たのが2年前で『コルバトントリ』で4冊目ですから、旺盛な執筆活動、ということになりますね。

山下 これ書いたあと、ぼく半年くらい書いてなくて、もう書けなくなるかな、とも思ったんですけど、最近また書きはじめました。『コルバトントリ』までは、自分が実際に見聞きしたことの記憶なのか、経験したつもりになっていることなのか、が遺した傷、からくる1つの大きな衝動が小説になっていたような気がしています。

佐々木 使われている言葉は非常に平易で、きわめて読みやすいのだけれど、読みはじめて数行で、あれ、なんだろう、と立ち止まるんですよね。文が物語という形をとろうとするたびにほどけていくというか。無粋な質問だけれど、どうやって小説を書いているんですか。最初の1行とか。

山下 『コルバトントリ』は少年がおばさんの家を出て行くところから書きはじめました。出来上がった作品の冒頭にある神戸空襲のシーンは途中で思いついて、面白いんちゃうかな、と入れたんです。

佐々木 どの段階で爆撃シーンが出てきたんですか。

山下 中学生が電車に轢かれるあたり(笑)。少年が家を出て、目にうつっていくものを書いていく。大きな道があって、神社があって、神社で中学生がケンカしている。駅について、ホームに何人かの人がいる。さっきの中学生が向こうからやってきて、その中のだれかが「おい」って線路に降りて、続いてきて、電車がきて、あ、轢かれる、と思う。じゃ、轢かれた。

佐々木 せっかく出てきたのに、早速轢かれる(笑)。

山下 電車に轢かれるって結構たいへんなことじゃないか、って、1回そこで止まるんですよ。人が死ぬわけですから。何日か書けなくなる。

佐々木 生死というのは決定的なことで普通は登場人物は死んだら終わりです。でも山下さんの小説では死んだあともその人はいる。執筆再開まで時間が必要だったのは、生きているってことと死んでいるってことが併存しているような状態がご自分の中に自然に導きだされてくるまで待つ、ということなのかな。

山下 いや、ぼくはたぶん、人が死ぬ、というようなことをたいしたことと思っていないんです。コップが倒れるくらいのこと、と。自分が死ぬことも含めてですけど。書けなくなるのは、人が目の前で電車に轢かれてバラバラになって肉が飛び散って、という、そういうことを考え続けるのが面倒くさいんです。轢かれているし、誰かが片付けてください、こいつが死のうと世界は動き続けます、というところにいくまでに、それでも2、3日はかかるんです。

佐々木 止まることは止まるけど、世界は動き続ける。

山下 そうです。

【次ページ】混じり合う視点

コルバトントリ
山下澄人・著

定価:1,300円+税 発売日:2014年02月10日

詳しい内容はこちら
<新刊を読む>陣野俊史「山下澄人の魔法」

シチュエーションズ
佐々木敦・著

定価:1,750円+税 発売日:2013年12月12日

詳しい内容はこちら
<新刊を読む>山田亮太「私はいま、なにをしないではいられないか」
[週刊文春WEB] 青山真治「ジャンルを越境し、3・11を越境する批評集」



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