谷口 描いた本人は物足りなくて。“一コマだけじゃ伝わらないんじゃないか”という不安があるんですよ。
平松 谷口さんの画は一コマだけでも、伝わってくるものがすごくあります。たとえば、「それゆけ! きょうもビールがうまい」のときの生ビール! モノクロの印刷なのに、あんなにビールの泡や冷え感が伝わってきて。写真を撮る場合、カメラマンが冷えたビールを撮るのにすごく苦労するでしょう、ところが谷口さんはそれを画で表現されていて、感動しました。
谷口 アシスタントが細部を一生懸命描いてくれましたから(笑)。写真が良かったんですよ。オリジナルの漫画を描くときも、写真を参考にして描きますから。
平松 たとえば料理の場合、写真をどうやって漫画にふくらませていくんですか?
谷口 写真にはどうしてもパースがついているので、そのままトレースするのではなく、線を省略したり、修正してつけ加えたりします。おいしそうにみせる影のつけ方があるんですよ。写真では白いものは白くとんでしまうので、ディテールがわかるように描き足します。たとえばオムライスの質感とか。逆に、写真通りに細かく描くと汚くなっちゃう場合は、線を省略します。ただ、食べ物はどうやってもおいしそうに描けないんですよ。
平松 十分、おいしそうですけれど。
谷口 いや、本物にはかなわない。
平松 どうするんですか?
平松 あのモデルは私の友人で、本当に下町育ちでチャキチャキとして、お酒もくくっと粋に飲み干すんですよ。
谷口 モデルもよかったわけですね(笑)。結局、おいしそうな状況をいかに絵で伝えるか、そのためにコマ割りをしたり、人物を出したりしているわけです。挿絵としてはかなり変則的だったかもしれませんけれど。
平松 著者としては大満足です。
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