
谷口 平松さんがいちばん印象に残ったのはどの回ですか?
平松 初回の聚楽台ですね。なくなってしまう店をいちばん最初に選んだことで、連載の方向性が定まった気がしています。店が閉まることになって初めて、その場の持つ意味が浮かび上がってきました。
谷口 聚楽台には結構通ったんですか?
平松 連日いろんな時間帯に通いました。長く続いている店は一種の生き物だと思うので、そこの空気をつかまえないといけない。自分の印象やイメージではなく、聚楽台に蓄積されてきたものが自分の中で確信にならないと書けません。
谷口 『孤独のグルメ』でもなくなった店が結構あるんです。ずっとは続かないかもしれない、という感覚はわかります。
平松 いつかなくなってしまうかも、という感覚が頭の片隅にあるだけで、店とのつき合い方も変わってくる。

一九四七年、鳥取県生まれ。冒険、動物、文芸と多彩な分野の作品を手がける。『「坊っちゃん」の時代』(原作・関川夏央)で第二回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。代表作に『歩くひと』『犬を飼う』『ブランカ』などがある。
谷口 社員食堂も誰もあつかわなかったテーマですね。
平松 社員食堂に行くと、その会社のカラーがよく出ているんです。いちばんエネルギッシュだったのは、なんといっても共産党本部ですね。新潮社とも共通してますが、ひとりの料理人がこだわりを持って料理しているんですね。
谷口 絵を描いていて食べたいと思ったのは、荻窪の「川勢(かわせい)」。あのうなぎの串焼き、食べてみたいなー。
平松 カウンターだけですけれど、いい店ですよ。
谷口 早く行かないと埋まっちゃうんでしょ。行きたいと思ってもなかなか行けない。銀座のサンドウィッチも食べてみたかった。お店選びは大変だったんじゃないですか?
平松 自分のなかで“この店は確か”という確信がある店だけ、しかもおいしさだけじゃなく、物語がある店を選びました。おいしいだけだと、情報になってしまうので。
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