谷口 初めての店もあったんですか?
平松 六本木のビールの店とかそうですね。六本木はふだん行かない(笑)。成田のうなぎも初めて行く店でした。全部わかっている店ばかりだと、つまらないので。
谷口 テーマによって選ぶ店も変わってきますよね。
平松 すごく考えます。たとえば「サンドウィッチは銀座で」のときは、「みやざわ」という店がバーにカツサンドの出前をしていることは知っていたんです。それに、東銀座の「チョウシ屋」という肉屋さんがやっているコロッケサンドを合わせることで、銀座の裏側が書けると思ったんです。「いつもこころにオムライス」のときのように、東京と大阪の老舗(しにせ)を並べた回もありました。全然違うもの同士を組み合わせたり、いろいろなパターンを試しました。
谷口 値段が手頃な店が多いのがうれしいですね。
平松 値段が手頃で、おいしくて、居心地がいい。そういう店はものすごく努力しているわけで、その努力の背後には、書くべきことが山ほどあるんです。値段が高かったのは「熊を食べにゆく」の比良(ひら)山荘ぐらいでしょうか。そうそう、熊の解体シーンではご苦労をおかけしました。
谷口 最初に写真だけ見せられたとき、「これ描けないよ」って言ったんです。熊を殺して食べるというのは、それなりの正当性が必要でしょ。あのときは文章が間に合わなかったんで、正直躊躇(ちゅうちょ)しました。その後、平松さんの文章を読んで、「これなら描ける」と思いました。
平松 熊の回はぜひやりたかったんです。獲れたら連絡をくださいって、一年間ずっと待っていたんです。
谷口 本当は熊の猟も描きたかったんです。そこまで描けば、人はなぜ生命を食べるのかが伝わったんじゃないかな。
平松 「黒い服を脱いだら白い服」と本文で熊の解体を表現していますが、あの脂肪で冬を越すんだということを、解体を目のあたりにして初めて実感しました。
谷口 猟師も犬も熊も、みんな命がけなんですね。
平松 たんなる食べ歩きだけではなく、その背後にある食文化も伝えられれば本書の著者としては本望です。
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