──『サンドウィッチは銀座で』は、平松洋子さんの「オール讀物」での連載をまとめたものです。絶品の食べ歩きエッセイもさることながら、谷口ジローさんの漫画との“おいしい競演”も連載中から話題になりました。
平松 実は今日が初対面なんです。
谷口 漫画の場合も、原作者と漫画家はふだんはあまり会わないものなんです。言いたいことがあったら、編集者を通して言ってもらうから。
平松 谷口さんの画は空気や情感など、人物の背後にある場の厚みが見事に描かれていると思うんです。今回の連載は味の善し悪しだけでなく、料理をつくる人やその土地で暮らしている人、さらには気候風土なども書きたかった。そこを表現していただける方としてぜひ、と思い、編集部を通じてお願いしてもらったわけです。
谷口 最初は挿絵として頼まれたんです。私は漫画家なんで、カット一枚だけでは雰囲気が出せない。そこで漫画みたいにコマを割って、セリフも入れたいと言ったんです。ところが、最初の担当者はコマ割りとはどういうものか、説明しても理解してもらえなかった(笑)。だから最初の一、二回はコマ割りをしないで遠慮して描いていたんです。三回目の「池袋で中国東北旅行」の頃から、少しずつ入れてみた。料理を描いただけじゃ面白くないんですよ。平松さんの狙いは、料理の説明じゃないと思ったから。
平松 まさにその通りなんです。でも、第一回目の「さらば、昭和の大衆食堂『聚楽台(じゅらくだい)』」からしてすごいと思いました。消えつつある場が持つ温度や空気感が伝わってきて、圧倒されました。
谷口 漫画のようにコマ割りがないのは気にならなかった?
平松 はい。連載の場合、文章とイラストだと作家が二人いるようなもので、お互いに呼応しながらも交わらないという関係ですから、息を合わせるのがなかなか難しい。原作と漫画の場合、もっと明瞭だと思うんですが。