数多の傑作を世に問うてきたミステリの登竜門・メフィスト賞。記念すべき第50回の受賞作は、賞の歴史に恥じない驚天動地の問題作であった。
主人公の沖はアウトドア趣味の公務員。ブログで知り合った仲間とともに仮面の男・黒沼が所有する小笠原諸島の孤島で、毎年オフ会を行っていた。
ところが今年は島に到着した翌朝、参加者の2人が失踪。さらにアイスピックによる殺人事件まで勃発し、一行は絶体絶命の危機に!――と、あらすじだけ追うと、一見オーソドックスな「孤島もの」のように思えるが、随所に奇妙な趣向が凝らされ、読者を翻弄するのが早坂流である。
まずは、この『○○○○○○○○(まるまるまるまるまるまるまるまる)殺人事件』というタイトル。あえて伏せ字にして、巻頭に大胆不敵な「読者への挑戦状」を掲げる。「犯人当て」だけではなく、「タイトル当て」をも読者に求める前代未聞の“挑戦”だ。
「本書には、作品の軸となるあるトリックが存在するのですが、そのトリックを効果的に盛り上げるため、様々なアイデアを考えていく中で、ふと、ひとつの諺(ことわざ)が頭に浮かんだのです。ちょうどタイトルに悩んでいたところだったので、その諺をそのままタイトルにしようとも考えたのですが、実際にその諺を掲げたらあまりにそのまんますぎてネタが丸わかりになってしまう。だったらそれを伏せ字にして、読者に当ててもらったら面白いのでは、と考えました。ちなみに、冒頭に挑戦状を置くのは、清涼院流水さんの『ジョーカー』のスタイルを踏襲しています」
もちろん、タイトルがわかったら終わり――というような底浅い作品ではない。事件の真相が明らかになり、唖然、茫然としている(はずの)読者をダメ押しのようにタイトルの衝撃が打ちのめす。あまりの展開に、怒り出す読者もいるのではと心配になるほど、著者のサービス精神は徹底している。
「昔から麻耶雄嵩さんの『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』が大好きで、本格ミステリの限界に挑戦するような、本質を探求していくような作風に憧れていました。自分もそういうミステリを書きたいと思ってメフィスト賞に応募し、デビューすることができました。
読み慣れていない人はもちろん、ミステリを読み慣れた人でも、必ず驚かせる自信があります。ぜひ、楽しんでいただけたらうれしいです。
2作目は、今回よりもさらに変わった作品になると思います。誰も見たことのない斬新な作品、今までにない仕掛けを施した、読んだ人に必ず驚いてもらえるような作品を書きつづけていきたいと思っています」
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『○○○○○○○○殺人事件』 (早坂吝 著) 講談社ノベルス
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