熱心な書店さんが本の魅力を伝えたくて作るフリーペーパー。その中でも熱いコメントと秀逸な切り口で同業の書店員にも多くのファンがいるのが、TSUTAYA寝屋川駅前店の文庫担当、ねこ村さんが毎月発行している「ぶんこでいず」。なんと4周年記念号で「夏におすすめ 文春文庫10冊」という特集を組んでいただきました。読書の参考にぜひどうぞ。
まずは、ねこ村さんのご挨拶から。
本って面白い、本屋って楽しい! それをお客さまに伝えたい。
たくさん本があって何を読んだらいいのか分からない。そんな方々の「本を読んでみようかな」というキッカケを作りたい。その思いで作り始めました。
電車の中で、家で「コメントPOP」を読む感覚で、A4サイズにたくさんの思いをこめて。毎月月末頃配布している文庫のフリーペーパーです。
10冊すべてにオリジナルイラストを描いていただきました。どれも、本への愛に溢れています。ひとつひとつクリックして、大きな画像で楽しんでください。
『武士道シックスティーン』(誉田哲也)
剣道どころかスポーツ全般苦手な私ですが、見事大ハマり!
もうめちゃくちゃ面白い! 宮本武蔵を心の師とする剣道バカ、いいえ剣道エリートの香織と、お気楽不動心の早苗は16歳。
決して気が合っているわけでも、仲良しでも何でもない。
「剣道」で出会い、「剣道」を通じて香織と早苗は仲良く……はならない!(笑)
決して仲良しごっこで終わらないところがこの小説のいいところ。
夏にぴったりの青春小説です。
『時の罠』(辻村深月、万城目学、湊かなえ、米澤穂信)
豪華! 人気作家4名のアンソロジーです。
辻村さん、湊さんはとても短編と感じさせない物語。
短編ながらもハッとしたりドキドキしたり。とても満ち足りた気分に。
万城目さんはその世界感をとことん楽しめる作品になっています。
米澤さんは「……そうきたか!」という驚き……は読んでから味わってほしい!
どの作品も「チョイ読み」に最適な文庫です!
旅のおともに連れていってはいかが?
『円卓』(西加奈子)
「子どもの頃は何も考えなくていいから楽だったなあ」「ずっと遊んでいられて良かったなあ」
なんて思うことはありますか? 本当に気楽な毎日だったのか。
私は正直、毎日「何して遊ぶか」「給食のパンを残す言い訳」などに主に脳みそを働かせていました。
小説の中で主人公のこっこ(小学3年生)が実に生き生きと分からないことは大声で分からない! と叫び欲求にとことん素直に応じる。
色々な場面で、当時の私も感じた疑問をこっこが叫んで、欲求のままに生き生きと動き回る。
「メガネ」に憧れていた小学生の頃の自分に、タイムスリップして教えてやりたい。
20数年後、突然近眼になって憧れの「メガネ」を着用することになるんだと。
『少し変わった子あります』(森博嗣)
ヘンな店……大学教授の推察力、洞察力……わずかな小さな変化を纏いながら物語は静かに進みます。正直、一体どうやって終わるの? とそこばかり気になるのですが、その「予想」を、「予感」を想像しながらひたすら待つ。
終わりまで、順序通り、丁寧にとばすことなく読むと「え!?」という感覚が味わえます。
そして、読みかえすことになる。「一体いつからなの?」と。
『小さいおうち』(中島京子)
ショウワモダンの情景がひろがる小説。
「昭和10年がそんなにウキウキしているわけがない」と、私も思っていた。
だけど確かに、日本中の家庭が、国の情勢を、戦況を把握していたのだろうか。
戦況が厳しくなっていく中で、家を守る女たちは暮らしを彩ることの知恵や工夫を模索していたのかもしれない。
最後は何度読んでも色々な感情がわいてきて、いつも目頭が熱くなる。どんな結末が良かったのかは読む人によって違うかもしれない。
時は残酷で、過ぎ去ってしまうものだからこそ「美しく」「儚(はかな)い」と感じてしまうのかもしれない。
それでも「切なく」も「悲しく」もある小説なのに、読み終えたあとはどこか爽やかさすら感じる、ふしぎな一冊です。
『ソロモンの犬』(道尾秀介)
道尾秀介初心者のかたにもオススメ。
青春ミステリーです。切なく悲しいのに、読み終えたあとは爽やかさが残る。
そしてやっぱり知らない間に騙されていて、気がつくと道尾秀介の術中にハマってしまっている。
騙されたことさえも、悔しい。というよりも「ありがとう!」と言いたいくらい爽やかな気持ちにさせてくれる。
夏休みにはぴったりの小説です。
『終点のあの子』(柚木麻子)
元気いっぱいのビタミン小説、ではありません。しかしイジメ小説でもスクールカーストでも無いと私は思っています。
よくある学校の、よくあるクラス、よくいるクラスメイトたちの連作短編集です。
しかし、だれか一人の登場人物に自分を投影させて読んだわけでもありません。どのページにもまるで自分がいるかのような感覚でした。
心の中で思っていることを口に出さない、出してはいけない「見えないルール」に苦しんで早く大人になりたい自由になりたいと、そればかり望んでいたはずだったのに。
大人になった私はもう二度と戻らないあの頃のことを思い、懐かしくて寂しい気持ちになっている。
フォーゲットミー、ノットブルー。
自分のこと、自分が何色なのか分からない。そんなあなた、かつてその頃を経験したあなたに読んでほしい一冊。
『世界クッキー』(川上未映子)
最初に読んだ川上さんのエッセイも楽しくて、なんだか文章じゃないみたいだなあ、と驚いたのを覚えていたのですが、この『世界クッキー』も、一体、世界なんだかクッキーなんだか、何なのでしょう? と疑問に思って買いました。このエッセイは文章が、ことばが、音が鳴っているかのような感覚でした。
歌っている、というよりも、カラカラコロコロ音が鳴っているような印象でした。りーん、というよりも、やはりカラカラ……コロコロ……。何回読んでも鳴っています。
ちょい読みにもオススメのエッセイです。
『時をかけるゆとり』(朝井リョウ)
私はゆとりを憎んでいた。非ゆとりの私はギリギリ非ゆとりであることからしばしば ゆとりの洗礼を受けてしまっている。そしてその長年の積み重ねから徐々に「おのれゆとり……」という思いを蓄積させていたのだ。
ゆとり爆裂の朝井さんのエッセイを読んだ私は、声をあげて笑ってしまった。
……大声で笑うなんて……非ゆとりの私が……。
しかも何か所も。(不覚っ!)
……かくして、私とゆとりとの戦いは幕を閉じようとしている……。
『世界堂書店』(米澤穂信・編)
世界から集められたさまざまなジャンルの短編小説たち。いきなり口の中に入れて、もぐもぐと味わってみよう。「おもしろい!」「ふしぎだな」「どういう意味?」
人によっても感想も色々でしょう。すべて味わい尽くしてから米澤穂信さんの解説を読むとあらびっくり。先ほど味わった小説の味わいに変化が!
その二段階の楽しみを体験するためにも、まずは頭をからっぽに。順に短編を楽しんでみましょう!
TSUTAYA寝屋川駅前店は『火花』がベストセラーとなった又吉直樹さんの地元とあって、店頭には又吉コーナーが大展開。文庫売り場の一角にも著作や関連本をまとめた又吉コーナーが出来ていました。
文庫売り場は作品を読み込んだねこ村さんだから書ける楽しいPOPに溢れていて、つい色々な本に手が伸びます。本が棚のあちこちから手招きして声を掛けてくれるような、楽しい売り場。あなたもきっとお気に入りの本が見つかることでしょう。
あっと、お気づきかも知れませんが、今回掲載した紹介文と、「ぶんこでいず」掲載の文章は、ちょっと違います。出来れば「ぶんこでいず」を手に入れて読み比べてみてください。TSUTAYA寝屋川駅前店はもちろんのこと、東京渋谷の大盛堂書店、サクラ書店平塚ラスカ店など、他地域の書店さんでも配布しているところがあります。
最後にねこ村さん、4周年を迎えて一言どうぞ。
楽しいこと、嬉しかったことばかりでは無いんですが、思い出してみても、辛かったことより、嬉しかったことしか思い出せません。
これからも楽しくて、ぎゅうぎゅうに熱意とコメントとイラストの詰まったフリーペーパーを作っていきますので、どうぞよろしくお願い致します!
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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