この先、佐登がどうなるかについては触れないでおこう。ただ思うのは、ひとは目の前の相手に恋をしているとは限らない、ということだ。
ともに生きていくひとのもとに戻るため、一度は身を灼く恋も必要なのではないか。不倫は、そこにいない心底思う相手への〈幻の恋〉かもしれない。
想う相手は常にどこか遠くにいる。たどり着くには、奈落に身を投じるしかない。佐登を包むのは、かつて、〈びいどろ〉で点じられた火だ。
陽光を集めて紙を焼く。一瞬で黒く焦げて、めらめらと燃え上がる。
ひとは、時にその炎に魅入られてしまうのだろう。
『びいどろの火』は歌舞伎の醸しだす風情が全篇に流れ、物語の場面の美しさは比類がない。読み始めれば、舞台を眺めるように、酔いしれて見つめるばかりだ。
どうして物語は終わってしまうのか。幕が下りても席を立ちかねる観客のように、そう思う。
プレゼント
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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