2004.04.20 インタビュー・対談

小説執筆中に巨大な石が動く瞬間

聞き手: 「本の話」編集部

『空中ブランコ』 (奥田英朗 著)

――以前のインタビューで、こんど伊良部モノをやるとすれば職業編みたいなものかな、とおっしゃっていましたが、前作『イン・ザ・プール』と比較してみて、今回の『空中ブランコ』はこういうところを変えてみたというのはありますか。

奥田 シチュエーションを変えるのは、目先を変えるというか、バリエーションを考えてですけれど、どんな職業にもいろいろな悩みがあるだろうし、悩んでいる人ってみんな同類だと思うんですよ。政治家でも野球選手でも弁護士でも、みんな一緒。神経症になる人はなるし、ならない職業なんてないわけですから。それぞれの世界の大変さとか、どこも一緒なんだよというのを書きたかったんです。

――特にお気に入りの一篇は。

奥田 それは「女流作家」じゃないかな。

――あれは、ご自身の実体験も反映しているのでしょうか。

奥田 そうですね。僕が想像していたより文壇の世界の人たちってまともであり、野心的な人も多いことにびっくりした。小説家なんて、はぐれ者ばかりだろうと思っていたから(笑)。この作品にモデルはいるのですか、と何人かに聞かれました。

――精神科医の伊良部の性格は、ご自身の中で憧れのようなものはあるのでしょうか。ああいう人間だったら楽だろうな、という。

奥田 なりたいとは思わないけど、そばにいたら面白いだろうな、と。決していつもそばにいたいとは思わないけど、こいつがいる限り世の中は大丈夫だろうみたいな(笑)。組織ってどこでもそうですけど、変な奴が一人二人まじっていると、なんか楽になるんですよ。全員切れ者だと、ギスギスして毎日ひりひりしちゃう。

――普通ああいう物語だと、医者のほうが主人公になることが多いと思うのですが、患者が主人公というのも視点が変わって面白いところですね。

奥田 患者の視点で伊良部を見ようかな、ということです。伊良部の視点なんかちょっと想像できない(笑)。患者はみんな僕自身なんですよ。僕の中にある煩悩とか、嫉妬心とかね、そういったものを伊良部に向かってわーっと吐き出しているところはあると思います。誰かにこう言ってもらいたい、楽にしてくれよ、と。

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空中ブランコ
奥田英朗・著

定価:本体520円+税 発売日:2008年01月10日

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