インタビューほか

小説執筆中に巨大な石が動く瞬間

「本の話」編集部

『空中ブランコ』 (奥田英朗 著)

――以前に、短篇と長篇を比べると、短篇を書くときはユーモア物を書く方向に流れる傾向が強いとおっしゃっていました。短篇と長篇、あるいは『空中ブランコ』のようなユーモア物と『最悪』『邪魔』などのシリアス物とでは、書くときのスタンスはご自身の中で変わるものですか。

奥田 いや、それはないですね。僕は人間の滑稽さを描くことをずっとしてきているのですけど、たぶんほうっておくとユーモアに走るんです。あまり深刻に物事を考えるのが好きじゃないんですね。問題作とか衝撃作って苦手なんです。踏み込むのが文学だと思っている人はいるでしょうけど、だとしたら僕には文学は必要ない。踏み込んで解決するならいいですが、解決しないんだから、楽に考えることを探ったほうがいい。伊良部シリーズなどはまさにそうですよね。シリアスに描こうと思えば、ものすごくシリアスな問題ばかりなんですよ。患者はみんな、仕事や生活がかかっている人たちなんだから。それをシリアスに考えたら解決するのかというと、しないわけですよね。だったら軽く生きる知恵みたいなものを考えたほうがいいんじゃないかな、と思いますけどね。『最悪』も『邪魔』も日常の小さなことを扱っているだけで、大問題というのは扱っていない。近くで見るから悲劇なんであって、遠くから見ると喜劇なんです。そういう両方の視点を持って自分は描いているつもりです。

――伊良部シリーズを、ことさら滑稽に見せようとしているわけではない。

奥田 ないですね。

――では実際の読者の反応はどうですか。

奥田 いつまでも『最悪』や『邪魔』の路線を求めてくる人はいますね。編集者にもいますよ。そろそろ、とか。じゃあ、今やっているのはなんだと、ムッとするんですが(笑)。全部まとめて僕という作家だから、片方だけというのはありえないです。でも、伊良部シリーズってファンが多いですよ。伊良部先生に診(み)てもらいたいという人もいたりして。

――次にまた目線を少し変えて伊良部シリーズを書くとすれば、何かプランはありますか。

奥田 実際に起きた事件とか社会問題の当事者が伊良部のところに行くとかね。BSE問題で追い詰められている牛丼チェーンの店長さんが伊良部のところに会いに行くとか。

【次ページ】何かを書いて人にうける快感

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