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『源内なかま講』解説

『源内なかま講』解説

文:門井 慶喜 (作家)

『源内なかま講』 (高橋克彦 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

 最後に付した(1)(2)(3)(4)(5)の記号の意味については、あとでふれることにする。ここに歴史上実在の人物と架空の人物がぬけぬけと入りまじっているのはご覧のとおりで、まことに虚々実々というしかない。いちおう点検してみると、実在するのは平賀源内、春朗、嘉兵衛であり(嘉兵衛は高田屋嘉兵衛だろう)、架空の人物は蘭陽、仙波一之進、おこう。……いや、あとの三人はほんとうに架空の人物なのだろうか? ひょっとしたら私たちが知らないだけで、じつは彼らも信頼できる史料にきちんと出てくる実在の人物なのではないか? そこまでふくめて虚々実々だ。

 人物設定がこうならば、彼らが旅先で出会う事件もまた虚々実々。たとえば第九話「手長(てなが)」はまったくのところの一篇で、源内たちの泊まった大坂八軒家浜の宿(やど)では手長と呼ばれる幽霊が出るという。屋敷じゅうを蛇のような長い腕がしゅるしゅる這いまわるという。あんまり怖いから「何とか退治してください」と宿の若い衆が源内にたのみこむ、そういう話なのだった。非現実的というか、空想的というか。伝奇小説的といってもいい。

 いっぽう第一話「打ち水」は、これはまた徹頭徹尾、の話だ。源内の弟子だった西洋絵師・小田野直武(これは歴史上実在の人物)は茶屋の女とのあいだに子供をなして死去したが、その女はじつは子供が産めない体だった。この矛盾をどう解くか。こちらは現実的、論理的なストーリーといえるだろう。ミステリ的といってもいい。すなわち『源内なかま講』一巻には、の両極端の物語がおさめられている。性質の幅がひろいのだ。

 しかしこのは、じつは水と油ではない。それらは最終第十話「厄介講」に達したところで完全にひとつに融合し、渾然一体となって、文字どおり鮮烈な電光を放つことになるのだった。くわしく述べるのはよしておくが、私はここのくだりを読んで(ほんとうに最後の数ページだ)、実在も架空も、科学も非科学も、論理も幻想も、人間も幽霊も……すべての区別がもはや何の意味もないという思いに打たれて呆然としたのだった。

 虚々実々もここまで来ると、ただただ美しいというほかない。

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源内なかま講
高橋克彦・著

定価:620円(税込) 発売日:2013年09月03日

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