本書はもちろん「だましゑ」シリーズの第五弾。なじみの読者には言うまでもないこ とだが、なかには一見(いちげん)さんもいるかもしれないから、念のため、既刊本をたしかめておこう。すべて文春文庫刊。
I『だましゑ歌麿』(二〇〇二年)
II『おこう紅絵暦』(二〇〇六年)
III『春朗合わせ鏡』(二〇〇九年)
IV『蘭陽きらら舞』(二〇一一年)
V『源内なかま講』(二〇一三年、本書)
じつを言うと、さっき登場人物表の略歴に丸数字を付したのは、ここのところと関連づけたかったのだ。あの(1)(2)(3)(4)(5)をつけた人物は、そっくりそのままI II III IV Vの本の主人公になっている。つまり「だましゑ」シリーズでは――少なくともこれまでは――毎回、主人公が変わるのだ。さながらリレー競走のように。あるいは一世一元の制のように。
これはおもしろい工夫だった。というのも、それぞれの主人公たちの職業ないし略歴だけを再度、箇条書きにしてみると、
I=(1) 北町奉行所吟味方筆頭与力(ただし『だましゑ歌麿』の当時は平(ひら)同心)
II=(2) (1)の妻、もと柳橋の芸者
III=(3) 浮世絵師
IV=(4) 役者くずれ
V=(5) 蘭学者
重複がひとつもない。彼らはおたがい仲間でありながら、しかし職業生活ではまったく別々の人間なのだ。
当然、それぞれの本であつかわれる話題もその職業に引き寄せられることになる。たとえばⅠの『だましゑ歌麿』はミステリの味がかなり濃い。主人公である平同心は、江戸で起きた殺人事件を捜査するうち、しだいに老中・松平定信による「寛政の改革」にからむ幕閣政治の闇の部分へと足をふみいれていく、という話なのだ。
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