本に呼ばれる、ということがたまにある。理由はうまく説明できない。タイトルなのか著者名なのか、装幀なのか、その全部なのか。しかし、まったく未知の著者の場合もあるし、新聞広告などで装幀の見えない場合もあるから、この、呼ばれる感じはまことに不思議としか言いようがない。そして呼ばれてしまうともう、読まずにはいられない。
二〇一一年の秋、書店で新刊の『そらをみてますないてます』に強烈に呼ばれて、すぐさま購入。急ぎ足でぐんぐん家に帰り、そのままぐんぐん読みはじめ、ご飯を食べてまた読み進み、ベッドに入ってもさらに読み進み、読了。にごりのない、生きるよろこびのようなものが体に満ちわたり、読後しばらく、無言で空を見上げたのだった。朝焼けのはじまる前の、静かな海のような空だった。
その思い出深い本が文庫になるのは、とびきりなつかしい人と久しぶりに会うよろこびに似ている。あの夜明けに見た空を、もう一度見たいと思う。
椎名誠の作品史のうえでは、一九九八年刊行の青春小説『黄金時代』(文藝春秋)の続編ということになるのだろう。しかし本書は私小説の枠を超えた特殊な構成により、まったく別の小説のようにも読める。
十九歳から二十二歳ぐらいまでの青春の物語と、世界各地への冒険旅行の物語。この時間軸の異なる二つの話が交互に語られながら、著者の体験的ドラマが重層的に進行する。しかも、前者は時間の経過に沿って進み、後者は逆行する(最近の旅から過去の旅へ遡<さかのぼ>る)ため、時空間が反転を繰り返しつつ、全体としてはひとつながりになる。まるでメビウスの帯のような小説なのだ。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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