中学生になった頃、国語の教科書に載っているような日本の文学作品はおもしろいけれど、今の自分の生活からはずいぶんとかけ離れているな、と思うようになった。何かおもしろい本はないだろうか。お小遣いを握りしめて向かった書店、その棚にずらりと並んでいたのが片岡さんの作品だった。
『スローなブギにしてくれ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など、赤い背表紙でおなじみの片岡さんの文庫を次々に読んだが、はたして中学生だった私に片岡さんの小説の世界がほんとうに理解できていたかどうか。それでも、1980年代初頭、東京の片田舎に住む中学生にも、片岡さんの描く小説の世界、というのは深く刻みこまれた。
それから少し間があって、再び片岡さんの小説に再会したのは三十代のときである。『海を呼びもどす』という本をきっかけに、私は再びこの作家を追いかけるようになった。
小説家になってうれしいことのひとつに、自分が若いときからその作品を読んでいる作家に会える、ということがある。ごほうび、と言ってもいい。昨年、トークイベントで初めてお会いし、お話しすることができたのだが、驚いたのは片岡さんご自身の物腰のやわらかさ、そして、今も、ものすごいペースで作品を生み出し続けている現役の、生身の書き手であるということだ。
そのイベントで特に印象に残っている片岡さんの言葉がある。
「書くべきことは全部自分の外にあるんだ」と。
この言葉は、短編集『ジャックはここで飲んでいる』のなかの一編「ゆくゆくは幸せに暮らす」という物語のなかでも登場人物の一人によって語られる。
「…したがって人生は、じつは自分の外にある。人生もなにもかも、すべては自分の内側にある、と思ってる人がじつに多い。したがって、うまくいかない人生が、じつに多い。うまくいかない人生でも、なしくずしで寿命となる」
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