東日本大震災後、多くの作家がこの未曾有の大災害をモチーフにした小説を発表しています。被災者、残された遺族、原発の町で生まれ育った人々など、さまざまな立場の登場人物が震災とどう向き合い、どのように行動し、明日への希望を繋いでいるのか――“あの日”から5年という節目を迎えるに当たり、震災小説の関連記事をお届けします。
天童荒太『ムーンナイト・ダイバー』
篠田節子『冬の光』
吉村萬壱『ボラード病』
森絵都『漁師の愛人』
熊谷達也『調律師』
田口ランディ『ゾーンにて』
森村誠一『深海の夜景』
村田喜代子『光線』
樋口毅宏『二十五の瞳』
白石一文『幻影の星』
馳星周『光あれ』
※掲載は単行本の発売日が新しい順です。
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『ムーンナイト・ダイバー』 (天童荒太 著)
ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが……。
3.11後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作です。
■インタビュー・対談(本の話WEB 2016.01.31)
3.11後のフクシマを舞台に、原発が間近に見える波に手をつけて「書かせていただきます」と誓った
■時代の『主役』(Yahoo!ニュース 2016.02.19)
自分が変われば、世界が変わる 作家・天童荒太、被災地に立つ
『冬の光』 (篠田節子 著)
企業戦士として家庭人として恵まれた人生を送りながら、愛人を持ち、20年以上も家族を裏切り続けたひとりの男性は、震災ボランティアに従事し、四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えます。父の足跡を辿り四国にきた娘が見たものとは?
裏切られた家族の苦しみ、男女の深遠、高度成長期の男の矜持と虚無感、そして、四国遍路のリアルな豊かさ……読むほどに細部に引き込まれる1冊を堪能してください。
■インタビュー・対談(本の話WEB 2016.03.01)
3.11から5年 災害報道と小説の可能性――篠田節子×石垣篤志
『ボラード病』 (吉村萬壱 著)
B県海塚市と呼ばれる小さな地方都市に住む小学5年生の恭子が主人公。周囲の目を異常に気にする母親、一つに結束することを叩き込む担任、どこか体に不具合を抱える級友など、静かに淡々と町や人々の“異常さ”が描かれます。
ある日、亡くなった級友の通夜で、海塚市がかつて災害に見舞われた土地であると語られ――「文學界」に掲載後、各紙誌で絶賛され、批評家を驚愕・震撼させた、ディストピア小説の傑作です。
■インタビュー・対談(本の話WEB 2014.07.21)
吉村萬壱×長嶋有「13年目の同窓会」あえて取材しないで書く理由
■今週の必読(週刊文春WEB 2014.07.01)
読み手の現実認識を問う問題作(文:米光一成│ゲームクリエイター・ライター)
■書評(本の話WEB 2014.06.18)
沈黙を強いられた見者(けんじゃ)の遺言(文:若松英輔│批評家)
『漁師の愛人』 (森絵都 著)
大震災がモチーフになっているのは「あの日以後」。女3人でシェアハウスして暮らす毎日が、あの日から一変してしまった――2011年春の、東京のミクロな不幸と混乱が確かな筆致で描かれます。
表題作「漁師の愛人」は、漁師への転身をはかる事実婚の相手とともに、閉鎖的な海辺の町に移り住んだ紗江の奮闘を描いた中編。その他、少年のまっすぐな憤怒が眩しい【プリン・シリーズ】3篇を所収。
■特設サイト(本の話WEB)
森 絵都『漁師の愛人』 待望の傑作中・短編集
■自著を語る(本の話WEB 2014.02.14)
漁師が一番格好良かった
■インタビュー・対談(本の話WEB 2013.12.13)
なぜか無性に漁師を書きたくなった
『調律師』 (熊谷達也 著)
ある出来事がきっかけで、ピアノの音を聴くと「香り」を感じるという「共感覚」を獲得した調律師、鳴瀬の喪失と再生を描く連作短編です。
執筆中に東日本大震災に罹災し、小説を執筆することに疑問を感じた著者が、再び小説を通してどのように震災に向き合ったのかという軌跡が見事に下敷きとなった力作です。実際に主人公も震災と遭遇するシーンは、体験者ならではの壮絶かつリアルな手触りが残ります。
■解説(本の話WEB 2015.12.25)
被災地を生きる作家・熊谷達也の内なるドキュメントともいえる小説(文:土方正志│編集者)
■自著を語る(本の話WEB 2013.08.23)
初の『震災小説』
■インタビュー・対談(本の話WEB 2013.06.11)
震災がもたらした物語の転調
『ゾーンにて』 (田口ランディ 著)
福島第一原発から半径20キロ圏内、人が立ち入ることが出来ない高放射能汚染区域〈ゾーン〉。実際に訪れた著者は、棲む人が去った家は映画のセットのように見え、何百頭もの腐りかけた牛の死骸を目の当たりにし、かつて飼われ今は野生化したダチョウに追いかけられたといいます。
現代の巫女・田口ランディさんが、あの世とこの世がつながる場所で生きる者たちの命の輝きを描きます。
■解説(本の話WEB 2016.01.27)
高放射能汚染地域〈ゾーン〉をめぐる文学実践。計り知れないほど深くて広い田口ランディの紡ぐ世界(文:結城正美|金沢大学教授・環境文学)
■自著を語る(本の話WEB 2013.08.29)
今こそ原発問題の再解釈を
■書評(本の話WEB 2013.06.20)
ゾーンの内側と外側、その温度差が放つ濃密な世界(文:窪美澄|作家)
『深海の夜景』 (森村誠一 著)
妻を亡くした老人、路上生活者へと転落した若者、母子強姦殺人事件の遺族と犯人など、現代社会に生きる人々を、棟居刑事が優しく見守る社会派短編。「満天の星」では、3.11の東日本大震災の際、ビルのエレベーター内に閉じ込められた男女が描かれます。
誰もが生き辛さを感じている現代日本を、著者が暖かな眼差しで見据え、活写します。
■解説(本の話WEB 2015.10.23)
心に傷を負った人々を、やさしく照らし出す灯り(文:成田守正|フリー編集者)
■書評(本の話WEB 2013.05.02)
見果てぬ夢があるから、東京は眠らない(文:池田幹生|文藝春秋出版局担当編集者)
『光線』 (村田喜代子 著)
東日本大震災の2日後にガンが発覚、X線のピンポイント照射を受けてガンは消滅したという著者。原発事故のニュースを見ながら、自分のガンに放射線治療を受ける――表題作「光線」をはじめ、「海のサイレン」「原子海岸」「ばあば神」の4編は、著者の内なる震災体験から生まれました。
原発からもれる放射線と、自分の下腹部にあてられる放射線が混ざり合うのを感じる、という著者ならではの感覚、個人と社会の災厄が重なるという稀有な体験が、作品の随所で顔をだし、見事に文学に昇華されています。
■解説(本の話WEB 2015.02.04)
震災直後、ガン放射線治療を受ける女性にとって、放射能とは、東日本大震災とは?(文:玄侑宗久|作家・臨済宗福聚寺住職)
■書評(本の話WEB 2012.07.27)
市民のための福音書(文:池内紀|ドイツ文学者・エッセイスト)
『二十五の瞳』 (樋口毅宏 著)
震災後、妻と西へ逃げた作家が、「二十四の瞳」の舞台で有名な小豆島の海で、ある着想を得る。それは、平成、昭和、大正、明治と4つの時代を遡る悲劇の物語。そこには謎の生物・ニジコを見た男女は別れるという小豆島別離伝説がありました。やがて島の因縁話が明らかになり……。
稀代のストーリーテラーが変幻自在な愛を克明に描いた傑作です。
■インタビュー・対談(本の話WEB 2014.11.18)
樋口毅宏(作家)×新井見枝香(三省堂書店有楽町店)「ラヴかヘイトか、賛否二分の問題小説! 『二十五の瞳』とは何だったのか」
■解説(本の話WEB 2014.10.28)
不器用な愛と別離の物語(文:中山涙|作家・フリーライター)
■自著を語る(本の話WEB 2012.08.01)
愛という奇跡は一度しか起きない
■今週の必読(週刊文春WEB 2012.07.24)
〈引用〉が生み出した新しい私小説(文:大和田俊之)
『幻影の星』 (白石一文 著)
郷里を離れ、東京で酒造メーカーに勤める熊沢武夫はある朝、郷里の母からの電話で起こされ、自分のレインコートが地元のバス停に置き忘れられていたことを知らされる。しかし同じレインコートは自宅にもあり……震災後に起きた不思議な出来事をきっかけに、ある女性の顔が頭に浮かぶ。
この世はすべて幻影なのか――震災後の生と死を鋭く問う問題作です。
■解説(本の話WEB 2014.10.01)
時間のジレンマを乗り越えて 白石一文の小説技法(文:榎本正樹|文芸評論家)
■著者は語る(週刊文春WEB 2012.02.22)
震災後に起きた不思議な出来事を描く
■インタビュー・対談(本の話WEB 2012.01.16)
震災で考えた「死ぬこと」と「時間」について
『光あれ』(馳星周 著)
作品の舞台は、複数の原発を抱える福井県の敦賀。原発に支えられている、未来を描けないこの地方都市で生まれ育ち、窒息しそうな日々を揺れ惑った挙げ句に、主人公の徹が見極めた人生とは?
生きることの現実をあぶりだす、著者の新境地です。
■解説(本の話WEB 2014.03.07)
『光あれ』解説(文:東えりか|書評家)
■書評(本の話WEB 2011.08.20)
ダモクレスの剣の下の祈り(文:千街晶之|ミステリー評論家)
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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