インタビューほか

編集者として憧れた三人の偉大な表現者

「オール讀物」編集部

新井敏記(株式会社スイッチ・パブリッシング 代表取締役)

編集者として憧れた三人の偉大な表現者

 カルチャー&インタビュー誌「SWITCH」を創ったスイッチ・パブリッシング代表取締役の新井敏記さんは出版界に様々な変革を起こしてきた。二〇一五年十一月に、経営・編集手腕が評価され、伊丹十三賞を受賞した名物編集者に話を聞いた。

「オール讀物 2016年1月号」掲載

 今回選んだ三冊は、雑誌編集者として歩んだ道筋の中で、僕が最も影響を受けた作家たちの本ですね。

 物語を好きになった原点は、十五歳のときに読んだ大江健三郎さんの『芽むしり仔撃ち』。閉鎖された状況に取り残された少年たちを、大江さんなりにアレンジした作品に、ある種の熱を感じたんです。僕も田舎育ちでしたから、山あいの村の原風景が共有できたのかもしれません。疫病におかされ大人たちが捨てた村で、少年らがサバイバルするのですが、僕は、この村を自分の通う学校と読み替えていたんでしょうね。先生からスポイルされ、孤立していた状況を、この小説に重ねることで自分を救済することが出来たんだと思います。

 僕は幼い頃から文章を書くのが大好きで、様々な手段を使って表現したかった。例えば高校二年の夏にバイトをして貯めた三万円を握りしめて、書いた原稿を印刷所に持ち込みました。印刷所の人には「これじゃ紙代にもならないよ」と言われましたが職人さんの好意で、「活字を自分で拾うならいいよ」ということになった。でも活字なんて拾えなくて、見かねた職人さんに手伝ってもらって、「千年王国」という雑誌ができた。それを大江さんと小林秀雄さんに送りましたが当然、返事は届かなかったです(笑)。

 その後、大学を卒業して、「ポパイ」編集部でインタビュー原稿を書いたりしていました。あるとき先輩編集者の紹介で親しくなった片岡義男さんからアメリカのカルチャー誌「ローリングストーン」を段ボール二箱分譲り受けたんです。創刊号は三十二ページくらいのタブロイド判で、表紙から最後のページまで、すべてジョン・レノンの写真とインタビューだった。無名な新人記者にジョンはビートルズをなぜ解散するのか、真摯に答えていた。それから約十年後、ジョンが凶弾に倒れるまでその雑誌は、一人の人間を追いかけ続けたのです。段ボールの中の束には、なぜビートルズを解散するか、なぜオノ・ヨーコと結婚するかについて、ジョンの宝珠のような言葉が綴られていました。これを読んだ時に、“僕には「ポパイ」は作れないけれど、こういう雑誌を作りたい”と考えて、一九八五年に「好きな人に会いに行き、話を聞き、書く」という編集方針で「SWITCH」を立ち上げました。僕にとってのジョン、誰にインタビューしたいかと考えたときにまず思い浮かんだのは大江健三郎さんと、沢木耕太郎さんでした。

 一九九〇年に、大江さんの故郷で取材し、大江健三郎特集を作ることができたときは本当に嬉しかったです。先日、伊丹十三賞をいただいて、愛媛県松山市で基調講演をしたのですが、そのときに大江さんの故郷(現・愛媛県喜多郡内子町)の方々が、「ぜひ大瀬に足を運んでほしい」と声をかけてくださった。このことが感慨深く、二十年ぶりに再訪したんです。思い出深い時間でしたね。

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テロルの決算
沢木耕太郎・著

定価:本体670円+税 発売日:2008年11月07日

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オール讀物 2016年1月号

定価:980円(税込) 発売日:2015年12月22日

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