ひどい忘れ物、たび重なるけんか、靴ひもが結べない、机を離れてウロウロする、先生に出された課題を他の児童と同時にできない、給食を時間内に食べられない……。新入生の学校生活が破綻しかねないこうした不適応症状を、「小1プロブレム」と呼ぶ。
2009年に都内の公立小学校で行われた調査では、5分の1以上の教諭がこの小1プロブレムを経験し、うち約半数が年度末まで解決しなかった。原因として、児童に基本的な生活習慣が身についていないこと、家庭の教育力が低下していることなどが挙げられている。
個人面談などでこうした学校での問題行動を指摘され、心配になった親御さんも多いのではないだろうか。
東京学芸大学准教授の小笠原恵さんは、都内の幼稚園・保育園、小中学校で20年近く、先生たちの相談に乗ってきた臨床発達心理士だ。
このたび、家庭でもできる問題行動への対処法をまとめ、『うちの子、なんでできないの? 親子を救う40のヒント』(文藝春秋刊 発売中)を刊行した。
発達段階で子どもが示す気になる行動を、親子の工夫で乗り越えようという内容だ。
「お説教」では解決しない
私が東京都で区民の教育相談員になった20年ほど前は、まだ先生方による「生活指導」でこうした問題に対応しようとしていました。平たく言えば、「お説教」と「言い聞かせ」ですね(笑)。ところが、これでは問題の解決にならないことが多いのです。
研究者としての小笠原先生の専門は、自閉症を中心とする発達障害だ。ADHD(注意欠陥多動性障害)や学習障害など、発達障害に関する情報が広く知られるようになってきたが、当時その知識を持つ相談員はまだ少なかった。
当時は不登校が大きな問題になっていた時代でしたが、その中には学校に適応できない、と訴えるお子さんがいました。そうしたお子さんのうち、原因として大変多かったのが「学習障害」で、相談に来る子来る子、みんな「学習障害」と診断されました。 学習障害というのは、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推量する」のうち、いくつかができない状態を指します。 やがて、4~5年するとADHDと診断される子が増えました。ちょうど『のび太・ジャイアン症候群』というADHDに関する本が出版され、話題になった頃です。そして、さらに数年すると「アスペルガー障害」のお子さんが増えました。
たぶん、これまでも学校生活に適応できないお子さんの中には、こうした発達障害の問題を抱える子がたくさんいたのでしょう。情報が広く伝わるようになり、診断する側に知識が増えるにしたがって「発見」されたのではないか、と私は考えています。 こうしたお子さんに対しては、叱ったり、治療しようと思うのではなく、「できることを少しずつ増やしてあげよう」と考えた方がうまくいきます。
家庭でも事情は同じです。たとえば、靴ひもをうまく結べないお子さんがいます。同じ学年の子はさっさと結んでいるのに、うちの子は何度言ってもできない。こういう場合は、叱ってもうまくはならないですよね。かといって放っておいたら自然とやり始めるか、というとそうでもないのです。
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