2016.02.03 特集

面白いのは当たり前、賢い女なら“活用”しよう!
アラサー女子に贈る“司馬本”7つの楽しみ方(後編)

文: 勝木 美穂

前編より続く

昭和文学の巨匠・司馬遼太郎の作品は、読んで楽しむだけじゃもったいない。読んだら仕事や恋に役立てる、それがアラサー女子流“司馬本”の楽しみ方!

(5)もう会えない人だけど……司馬さんの人物像を知る

1989年鹿児島市の異人館にたたずむ。

 1996年に72歳で急逝した司馬遼太郎さんは、歴史小説やエッセイなど数多くの名作を残した国民的作家である。読者の中には教科書でその名前を知ったという人も多いのではないだろうか。小学校高学年の国語の教科書に掲載するために89年に書き下ろしたのが『二十一世紀に生きる君たちへ』。未来を担う子どもたちに向けた心優しきメッセージであるとともに、司馬さんの創作のベースとなった歴史や人間に対する考え方がわかる名文とされている。

 本名は福田定一。「司馬遼太郎」はペンネームであり、敬愛する中国の史家・司馬遷に「遼(はるか)に及ばず」という意味を込めてつけられたものだとか。大阪の薬局の二男坊として生まれた福田少年は、国立大阪外国語学校の蒙古語科に入学。在学中に学徒動員で中国東北部の戦車部隊に配属され、戦争の悲惨な現状を身をもって体験。そのことが後の創作活動に大きな影響を与えていく。復員後は大阪や京都、神戸で新聞記者として活躍。そこで出会った人々やそれぞれの土地で知った歴史や風土に対する見聞を綴ったのが『司馬遼太郎が考えたこと』だ。

 60年に『梟の城』で直木賞を受賞し、その翌年から作家業に専念。62年から『竜馬がゆく』『燃えよ剣』を、63年からは『国盗り物語』『功名が辻』、68年からは『坂の上の雲』と、たたみかけるように新聞や週刊誌上で歴史小説を書いていく。資料を集め、現地に足を運び、徹底して調べて書く手法は、『坂の上の雲』執筆時に神田の古書店街から日露戦争関連の書籍や資料が一切消えてしまった、というエピソードに象徴されている。それでも史実ではなく小説として楽しめるよう、ドラマチックに物語は進む。

 代表作の多くは戦国時代や幕末~明治の動乱期が舞台だ。通勤電車の中で読む新聞や週刊誌に連載されていた司馬さんの作品に登場する下剋上の社会を生き抜く戦国武将や、日本のためにと命を懸けて戦った幕末の志士たちに、高度経済成長期のサラリーマンたちは鼓舞されたのだろうか。日本人の歴史観に大きく影響を及ぼしたと言われており、歴史もののドラマや映画に登場してくる織田信長や坂本龍馬、西郷隆盛らの人物イメージの多くは“司馬本”のそれに影響されたものも多い。

 40年に及ぶ創作活動の後半は小説よりもエッセイを中心に執筆した。その中でも今なお人気の高い作品が『街道をゆく』シリーズだ。亡くなる直前まで日本や世界各地の街道を自らの足で歩き、その土地の歴史や風土のことを綴ることで「日本とは何か?」「これからの日本はどうあるべきか?」という文明批評を積極的に行った。

 在りし日の司馬さんに触れられる場所として、多くのファンが訪れるのが東大阪市にある「司馬遼太郎記念館」だ。執筆に使っていた書斎がそのままの状態で残されていたり、トレードマークだった眼鏡や蒐集するほど好きだったバンダナなど数々の遺品を目にすることができる。


『梟の城』
隠遁生活を送っていた伊賀者・葛籠重蔵は秀吉暗殺の依頼を受ける。その行く手を阻むかつての相弟子・風間五平。戦国末期に暗躍した忍者たちの姿を生き生きと映し出した第42回直木賞受賞作。重蔵と、くのいち・小萩との恋も見逃せない。(新潮文庫)

『司馬遼太郎が考えたこと』
創作活動の傍ら書き残したエッセイを年代順に収録。第1巻は新聞記者として働き始めた1953年から直木賞受賞の翌年61年までの89篇。記者時代に大阪や神戸で出会った人々や自然、食文化が伸び伸びとした文体で綴られている。(新潮文庫 全15巻)

『二十一世紀に生きる君たちへ』
子どもたちに向けて書いたメッセージ。子どもは何をしなくてはならないのか? 人は何のために生きるのか? その答えをわかりやすい言葉で語っている。世のため人のために生きた緒方洪庵の功績を紹介した「洪庵のたいまつ」も収録。(世界文化社)

【次ページ】(6)ちょっと知的な旅に出る

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