話を新人時代にもどそう。明るい性格を買われて、バラエティで成功するかと思われたが、新人時代に抜擢された明石家さんまさんとの新番組は、わずか七回で打ち切り。起用されなければ、アナウンス室にいる時間が長くなる。しかし菊間は、なんとなく時を過ごすのではなく、いつも新聞や硬派な雑誌を一生懸命読んでいた。暇があれば情報(新聞・雑誌・ネット・映画鑑賞・観劇など)をむさぼる情報欲の強い人間は、報道・情報番組に向いている。私は二年目になる菊間を誘い、当時、私がメイン司会をしていた土曜朝の情報番組「THE WEEK」にリポーターとして起用してもらった。ところがこれが伝説的番組で、レギュラー出演者が舛添要一&猪瀬直樹&海江田万里などなど……のちに都知事や民主党代表になる論客ばかり。二年目の菊間がスタジオで事件や政治経済の解説をしても、ゲストの方が詳しいのだ(笑)。毎週スタッフルームで泣いていたような気がするが、そんなことでは彼女はへこたれない。番組が終わると、おっかなそうなオジサマたちと積極的に会話をしていろんな知識を吸収しようとしていた。さらに、週一回の番組のためにすべての時間を拘束されているのに、VTRやスタジオの出演時間があまりに短いことを疑問に感じ、もっとアナウンサーとして働きたいと訴えてきた。私は局近くの喫茶店で「自分も六年目位まで、取材に出てもマイクを持つ手しか映らないなんてことがよくあった。焦らない」と話した記憶がある。
そして入社三年目で担当になった「めざましテレビ」で事故は起きた。周知のとおり五階建てビルの窓から生中継中に転落し、腰の骨を折る重傷を負った。実はこの時、我々が聞かされていたのは「手術をしても一生車いす生活になる可能性が高い」という最悪の情報だった。私も覚悟した。車いす姿の菊間にどう声をかけるかまで考えていた。
しかし、本人のリハビリの努力もあり、奇跡の退院。ただこの時なぜか私は(恐らく私だけだと思うが)ワイドアナ独特の勘で、退院を祝うより「とにかく写真誌に気をつけろ!」と口を酸っぱくして菊間に言い続けた。しかし本人は笑顔で「大丈夫ですよ~」と糠(ぬか)に釘。するとしばらくして、彼女は当時の交際相手との退院後デートをフライデーされたのだった。それ見たことか!である。自分で決断・判断できる女性なので、人の話をまともに聞かないときがあるのだ。ここも指摘しておきたい。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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