山田 未曾有(みぞう)の不況下で経済論議が盛んですが、思うに、「大量生産・大量消費」の工業社会、いわゆる「産業資本主義」での仕組みが、今のグローバル化した新しい資本主義社会、「ニューエコノミー」に適合しなくなりつつあることが、今度の不況の実態なのではないでしょうか。従来の「賃金カーブ」もそうです。
森戸 若いころは会社への「貢献」の割に「賃金」が低く抑えられながらも、長く勤めるうちに差が縮まり、そのうち、「賃金」が「貢献」よりも大きくなるという仕組みですね。
山田 年齢を重ねるにつれスキルアップし、生産性を上げていくという従来の工業社会ならともかく、「ニューエコノミー」においては、「想像/創造力」「情報スキル」といったものが生産性を大きく左右します。それを身につけた社員もそうでない社員も「年齢」で一緒くたにしたこうした制度はいろいろな矛盾を引き起こしているのではないでしょうか。
森戸 それになぜか、経済学者はラテン系の明るいタイプが多いので、「年齢にかかわらず、いつまでも活き活きと働ける社会にしよう!」なんてことをサラッと言ってのける(笑)。でも、そうしたメリットの裏にひそむデメリットについては、あまり触れたがりません。
「エイジフリー」もいいけれど、都合のいいことばかり議論されているのを見るにつけ、労働法の専門家として、物事にはメリットとデメリットの両面があるよ、ということを知ってほしくて、『いつでもクビ切り社会』を書きました。
「エイジフリー」の発想も、その先進国というべきアメリカの影響を大きく受けています。
山田 アメリカでは、採用の際に「年齢」を聞いてはダメだそうですね。
森戸 日本と違って、就職活動や転職で履歴書を書く時も、人種、性別、そして年齢に基づく差別を避ける意味で、写真を貼ることも年齢を書くことも要求されないようです。職歴や学歴が中心の履歴書になるみたいですね。
アメリカで実際にあった例ですが、経歴も申し分なしで、面接したところ、恰幅のいい立派な人だったので、会社が副社長として採用した。しかし実は彼はフケ顔なだけで、二十八歳だということが後でわかった。そこで、「副社長としては若すぎるから辞めてほしい」と告げた会社に対し、その人は「若いからといってそんなことを言うのは“年齢差別”だ」と訴えたそうです(笑)。