――本作では狩野派を率い、「洛中洛外図」「四季花鳥図」「檜図」などを描いた天才絵師・狩野永徳の生涯が描かれます。今回永徳のことを書こうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
山本 僕は赤ん坊の頃からしばしば大徳寺の聚光院に連れていかれていて、そこの本堂に永徳の「四季花鳥図」があったんです。だから物心がついて1番初めに見た襖絵が永徳で、そのものすごい存在感をずっと覚えていました。
後になって、ある画家の方から永徳の絵のすごさをこう教えられました。「奥行きのある絵を描ける絵描きはそれなりにいるけれど、前に出てくる絵を描ける人間は少ない」と。
「四季花鳥図」はまさに「前に出てくる」絵で、襖の右側から正面に向かって描かれる梅の枝が、ほんとうに前に出てくるように見える。永徳はすごいと、あらためて思いましたね。
――「ものすごい存在感」の理由がわかったわけですね。
山本 はい。数年前の永徳展で初めて見た「檜図」でも、池の水は奥に沈む感じがあるのに、檜じたいは明らかに前に迫ってくる。やはり天才性を感じさせる強い絵でした。でもほんとうに永徳のことを書きたいと思ったのは、永徳が19の時に描いたとされる、新発見の「花鳥図」(「四季花鳥図」とは別の物)を見たことからです。
――その「花鳥図」はどのような絵なのですか。
山本 若描きだからちょっと鳥の描写が固くて、正直そんなに達者な筆ではありません(笑)。でも描くことが楽しいということがとても強く伝わってくる絵で、僕はものすごくいいと思いました。でも永徳の絵は、この「花鳥図」のように描いていて楽しそうなものばかりではなく、明らかに苦悶の中で描かれたものもある――もちろんそれは僕が推測したことですが、なぜ永徳の絵には「楽しそうなもの」と「苦悶」があるのか。その疑問を持ったことが、この物語を書きたいと思った大きなきっかけです。
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