──この本は、アトピーがなぜ起きるのかに始まり、どうすれば治るのか、その具体的な治療法まで、たくさんの症例を挙げて詳しく書かれています。一方で日本の医療行政の不備、大学病院の医療現場が抱える諸問題にも多く筆をさかれてますね。
菊池 アトピーを正しく理解してもらうには、どうして治せなかったのかというバックグラウンドを含めて知ってもらう必要があるからです。大学病院の事情は僕もかつてそこに長年属していただけによくわかります。東京の日暮里(にっぽり)に皮膚科の病院を開いて十三年目になりますが、いまだに「大学病院に何年通っても治らないので、いろいろ調べて先生のところに来ました」という患者さんが毎日のようにみえます。訊けば、患者さんは一年通っても、大学病院の医師から検査も細かい問診もしてもらっていない。原因を突き止める努力をしなければアトピーが治るはずがないことを承知で、患者さんの話を聞かず、検査もせず、投薬だけするのは論外です。
ただ、大学病院側にもそれなりの事情があり、確信犯的なところがあります。患者さんの数が多い上に、なにしろ雑用で忙しい。会議もあるし、論文も書かないといけないし、アルバイトにも行かなくてはいけない。一人の医師が患者さんとじっくり向き合う時間が実際のところないのです。そのためアトピーと大学病院とのミスマッチが生まれるのです。ですから僕たち専門医が、患者さんの誤解や思い込みを一つひとつ解きほぐしていくしかない。誤った情報やウソが、いまだにアトピーに関してはまかり通っていますから。
──確かに、インターネットを見ても、主義主張の違う膨大な情報が出ています。
菊池 そのほとんどがウソと言っても過言ではありません。「アトピービジネス」という言葉があるくらいで、怪しい健康食品を売りつけようとする業者が、その背後にたくさん隠れています。無料の情報や誇張したステロイドの恐怖で煽(あお)っておいて、あとから高額な商品の販売がついてくる。その手口は年々巧妙になっています。
──困ったときは専門医を頼ってほしい、アトピーは決して治らない病気ではない、という力強いメッセージに勇気づけられる患者さんもたくさんいると思います。この本をどんな方に読んでもらいたいですか。
菊池 やはりアトピーで苦しんでいる方とそのご家族ですね。本書でも繰り返し述べたように、アトピーはもう決して治らない病気ではありません。検査できちんと原因を突き止め、それを除去し、ステロイドを含む必要最小限の薬を使えば、周りの人と全く遜色のない生活が送れるくらいに回復します。もし長い間アトピーに悩んでいる方がいたら、ぜひ一度専門医を訪ねてみて下さい。そこで正しい指導を受け、今までの治療法が間違っていたと知って愕然(がくぜん)とすることがあるかもしれないけど、その事実を素直に受け止め、正しく対処すれば、希望の光が見えてくる。長年苦しんできたアトピーが、原因をご自身が知ることでみるみるうちによくなった、そんな患者さんが当院にはたくさんいらっしゃいます。
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