2014.07.02 インタビューほか

江戸麹町を舞台に
大奥出身の尼僧の推理が冴える

「本の話」編集部

『老いの入舞(いりまい) 麹町常楽庵月並の記』(松井今朝子 著)

江戸麹町を舞台に<br />大奥出身の尼僧の推理が冴える

――江戸麹町を舞台にした新しい捕物帖『老いの入舞い』は新米同心・間宮仁八郎の事件帖です。けれど肝心の謎解きにいたっては、大奥勤めを経て現在は尼僧になっている志乃という女性の推理がどの事件でも非常に冴えています。

松井 最初の捕物帖といわれる岡本綺堂の「半七捕物帳」からして西洋ミステリーの影響下に生まれていますよね。そこでアガサ・クリスティー作品に登場するミス・マープルを、江戸を舞台に主人公にしたらどうなるだろう――江戸時代は女性だけであまり動き回ることは出来ませんでしたが、ミス・マープルもおばあさんだからあまり外を動き回るわけではないし、代わりに室内で推理を巡らすという設定を決めました。ただ年寄りすぎるのも色気がないので、もう少し若い大奥出身でやや年齢不詳の志乃という人物になったわけです。

 大奥というのは将軍様の側室集団のいるハーレムにとらえられることが多いのですが、基本的には御台様に仕えている女官たちの集団。将軍以外の男子禁制の奥で3000人に及ぶ女官たちが力仕事でも何でもこなしていました。大奥を差配するお年寄にもなれば表の老中にも匹敵するという権威もあり、現代で言うキャリアウーマンたちの集団です。そこで30年以上勤めれば、勤め時と同じだけの報酬を貰って外に出て住むことが実際にありました。頼母子講で積んでいた退職金も出たし、養子を組んだりの老後保障もできていて、引退後も大奥へ遊びに行き、色々やかましく言ったりもしたそうです。こうした存在を探偵役にしたら面白いと考えました。

――一方、定町廻り同心の仁八郎は、真面目な好青年ではあるのですが何しろ経験が浅く……。

松井 同心というからには一応警察官なわけで、事件を解決しなくてはいけないはずなのに、全部、志乃に先を越されてしまう(笑)。志乃のほうは仁八郎を結構気に入っているんだけれど、本人はものすごく反発しているんですね。いつの時代もおばさんから見ると、反発して熱くなる若い男って素敵ねって思うんですけれど、逆に最近はそういう男は少なくなっていますから、理想化して書いた部分もあります。

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老いの入舞
松井今朝子・著

定価:1,500円+税 発売日:2014年06月12日

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