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永遠に生きる二人のあっぱれな熱愛。作家・辻仁成が放つエネルギッシュな快心作

永遠に生きる二人のあっぱれな熱愛。作家・辻仁成が放つエネルギッシュな快心作

文:野崎 歓 (フランス文学者)

『永遠者』 (辻仁成 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #小説

 しかしながら、この物語を“吸血鬼小説”という風にとらえることにはやや、ためらいを覚える。ヴァンパイア物を創始したというべきブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』や、魅力的な女ヴァンパイアの物語であるレ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』といった古典から、さまざまな映画やドラマにいたるまで、吸血鬼とは人間の血に対する渇望にさいなまれては吸血行為を繰り返す、恐ろしい怪物というのが定番だろう。だが本書のカミーユにはそうした性格は与えられていないし、彼女と血の契りをかわしたコウヤにしても同様である。血の儀式によって、決して死ぬことがなくなった「永遠者」であるという一点のみが、彼らを他の人間たちと隔てている。もちろん、それは二人にとってあまりに重い運命であり、呪いですらある。

 以降、この小説は百年以上にわたる時を横断して、二人の人生のゆくえを描き出す。背景には、戦争や大災害をはじめ、歴史上の事件が次々に浮かび上がり、二十世紀クロニクルのおもむきもあるのだが、しかし物語の核心はなんといっても、コウヤとカミーユの愛であり、その不滅性である。「永遠に愛して頂戴?」とカミーユの投げかけた言葉に、コウヤは「武士に二言はない」といって応えた。それ以来二人は、終わりなき愛を生きるという、ほとんど不可能とも思えるような難事に挑戦することになる。「永遠」が運命づけられたとき、恋人同士に何が起こるのか。作者はそれを、想像力を自在にはたらかせて面白く、また切なく描くのである。

 周囲の人間はどんどん年を重ねて老いていくのに、自分だけは青年のままであり続ける。そんな状況には、けっこうユーモラスな部分もある。普通の人間と結婚したならば、相手が先に老けていくのはもちろんのこと、自分の子どもにさえ追い抜かれてしまうという悲喜劇も生じてしまう。コウヤとカミーユは別々の国に引き裂かれ、不本意ながら、それぞれに別のパートナーを作って生きていかなければならない。しかしそれゆえ逆に、情熱の激しさを保ち、織姫と彦星をはるかに上回る間隔をあけながら――何しろ時間は無限にあるのだから、それほど焦ることもないのだ――、変わらぬ愛を確かめあう。超遠距離、かつ長大なインターバルにも影響を受けることのない、あっぱれな熱愛ぶりなのである。

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永遠者
辻仁成・著

定価:本体740円+税 発売日:2015年12月04日

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