2015.08.31 書評

奇抜な犯罪、意外な真相――現代本格ミステリの旗手の最新作

文: 千街 晶之 (ミステリ評論家)

『髑髏の檻』 (ジャック・カーリイ 著/三角和代 訳)

 モビール市警殺人課のカーソン・ライダー刑事が難事件を解決するジャック・カーリイの「PSITシリーズ」の第七作、『髑髏の檻』(二○一○年。原題Buried Alive)をお届けする。

 ……と書くと、カーリイのファンの中には「おや?」と思う方もいるかも知れない。これまで邦訳された「PSITシリーズ」は、『百番目の男』(二○○四年)、『デス・コレクターズ』(二○○五年)、『毒蛇の園』(二○○六年)、『ブラッド・ブラザー』(二○○八年)、『イン・ザ・ブラッド』(二○○九年)の五作。ならば、次は第六作が訳される順番ではないのか……と。

 実は、シリーズの第六作Little Girls Lost(二○○九年)は、初めてカーソン・ライダーの一人称スタイルではない作品であり、シリーズの中では番外篇とも言うべき内容となっている。そのため、第七作の本書が先に紹介されたという次第である。いずれ、この第六作も邦訳してほしいものだ。

 それはともかく、本書からカーリイの作品に入門する読者もいると思うので、著者の経歴とシリーズの基本的設定について簡単に触れておきたい。ジャック・カーリイはケンタッキー州ニューポート生まれ(現在も同地に在住)。少年時代に父からレスリー・チャータリスの小説を勧められ、ミステリに開眼した。二十年以上コピーライターを務めた後、二○○四年に『百番目の男』で小説家デビュー。この作品はメインとなるアイディアの、間違いなく後世まで語り草となるであろう衝撃性で話題を呼んだが、第二作『デス・コレクターズ』以降は、サイコ・サスペンス的な意匠を用いつつ、本質的には極めて怜悧に計算されたプロットを構築する本格ミステリ作家としての評価を高めている。

「PSITシリーズ」の主な舞台となるモビール市は、アラバマ州南部、メキシコ湾に面する実在の都市。PSITとは精神病理・社会病理捜査班(サイコパソロジカル・アンド・ソシオパソロジカル・インヴェスティゲイト・チーム)の略称である――と書くとなんだか物々しい組織のようだが、班員は主人公の「僕」ことカーソン・ライダーと、相棒のハリー・ノーチラス刑事の二人だけ。市警内では「くだらない(ピスイット)」と呼ばれている窓際部署だ。日本のTVドラマ『相棒』の特命係のようなものと見て差し支えないが、さまざまな難事件を解決してきたことで認められつつある。

 ところで、カーソン・ライダーという主人公の名前は、実は仮名である。本名はチャールズ・リッジクリフというのだが、彼が十歳の時、土木技師だった父のアールが惨殺された。更に五人の女性が相次いで殺害され、それらの事件の犯人として、チャールズの六歳年上の兄ジェレミーが逮捕されたのだ。ジェレミーはアラバマ逸脱行動矯正施設に収容されたものの、長い年月のあいだに、ひとを思うがままに服従させ操るカリスマ性を身につけたのみならず、他人の声を真似るなどの芸当も体得していた。チャールズは殺人鬼の弟という出生を隠し、カーソン・ライダーという仮名を名乗るようになったのだが、この秘密を知る者は相棒のハリーなど数人しかいない。大学で犯罪心理学を学び、異常心理犯罪のスペシャリストとしてPSITにスカウトされたカーソンは、猟奇犯罪に関する情報を得るためなどの理由で時折兄のもとを訪れていたけれども(ジェレミーは他人の狂気を正確に測定する能力も持っている)、ジェレミーは『ブラッド・ブラザー』で描かれた事件の際に脱走し、そのまま行方不明となっていた。

 ……ここまでが、本書で初めてこのシリーズを知った読者に、あらかじめ頭に入れておいていただきたい設定である。シリーズの旧作はいずれも猟奇的で奇抜な犯罪を扱っていたけれども、本書はどうだろうか。

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髑髏の檻
ジャック・カーリイ・著/三角和代・訳

定価:本体830円+税 発売日:2015年08月04日

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