書評

ヤマトと進、愛すべき仲間たち――進化しつづける“ホリデー”シリーズ

文: 吉田 伸子 (書評家)

『ウィンター・ホリデー』 (坂木司 著)

 本書のもう一つの読みどころは、宅配便ドライバーという仕事のディテイルだ。前作では夏のお中元シーズンの繁忙ぶりが描かれていたが、本書では、お歳暮からクリスマス、お正月、バレンタイン、そしてホワイトデーと、わんこ蕎麦状態で続くイベントと、それに付随する宅配便事情が、それぞれのドラマとともに描かれる。

 例えば、「おせち」の宅配。受け取る側にとっては、ちゃんと届いて当たり前な、その「おせち」が、配達する側にとっては、どれだけ気を遣うものなのか。汁漏れしないよう、綺麗な盛りつけが崩れないよう、細心の注意が要求されるのだ。ヤマトが働く「ハチさん便」の営業所が扱うその年の最高額のおせちは、何と二十万円! しかも、「当然生で、三十一日の配達予定」。要するに、万が一ミスをしてしまった場合、替えがきかないのである。毎年、師走のデパ地下には「おせち」の見本がずらりと並ぶけれど、あの「おせち」がお正月の食卓にあがるまでには、多くの宅配便の人たちの、手間と心がこめられていることが、本書を読むと分かる。

 この二つの読みどころをがっちりと支えているのが、登場人物たちのキャラクタだ。坂木さんの物語は、主人公だけではなく、脇のキャラクタまでしっかりと肉付けされていて、そこがまた魅力なのだけれど、本書はシリーズものということもあり、そこがさらにパワーアップ。「クラブ・ジャスミン」時代のヤマトの教育係だった雪夜。彼の、完璧な“ホストの王子様”っぷりは、本書でも健在だし、「クラブ・ジャスミン」の顧客だったナナ、「ハチさん便」の営業所のメンバーである、ボスのゴリさん、リカさん、コブちゃん、イワさん、ミキティに加え、本書では新入り君も登場(この新入り君がまたひとクセあって、色々やらかしてくれてます!)。他にも、『和菓子のアン』に登場する、あの彼女も、ちらっと顔を出しております。

 そして、そして、忘れてはならないのが、ジャスミン! もう、何といってもジャスミン推しです、私。「ホリデー」シリーズの表の主役はヤマトと進だけれど、陰の主役は、ジャスミンだ。野良猫みたいなヤマトを“拾い”、育て直したジャスミンがもう、最高にいい。前作も、そしてスピンオフ短編集も、そしてもちろん本書でも、彼女(彼?)の言葉一つ一つが、沁みること、沁みること。

「お手軽は馬鹿を作る近道なんだから」

「どこまでも近づくだけの人間関係なんて存在しないのよ」

「どこまでも近づこうとするのは不健康だし、いつか無理が生じるわ。だから子供は親離れをするし、恋人だって穏やかな関係になっていく」

「独りを受け止めきれない人間は、二人でいても三人でいても孤独なままなんだから」

 ふ、深い!深いよ、ジャスミン。そして、何て男前なの!!(ジャスミンには褒め言葉になっていないかもしれないけれど)「子供や生き物が大好き」なジャスミンなのに、でも決して手に入れることが出来ないのが、子供でもある。だから、「以前は、もし普通に男やってたら子供がいたのかしら、とか考えて悲しくなったり、ひがんだりもしたわ」と。

 うん、うん、そうだよね、悲しいよね。だけど、ジャスミンの凄いところは、ここからだ。そんなことはエネルギーの無駄だ、と。そんなこと考えている間に、そこらで泣いている子供にお菓子の一つくらい、あげられる、と。

「自分の子供を持つか持たないか、持てるか持てないかは個人の判断と運命よ。でもあたしは、あたしが出会うすべての子供は自分の子供だと思って接する」

 ジャスミンのこの言葉こそが、「ホリデー」シリーズの底をがっちりと支えている。そこが、本当に、本当に素晴らしい。そして、その言葉を聞いたヤマトが、「いい女だな」とジャスミンに言うシーンには、惚れ惚れとしてしまう。

 読み終えて、ふと気づく。そうか、ホリデーというのは、ヤマトと進の二人が、母親の由希子と三人になるまでの、「父子二人のホリデー」なのかも、と。いつか、そのホリデーが終るまで、ヤマトと進、そして愛すべき仲間たちとの“ホリデー”を見守っていきたい。

ウィンター・ホリデー
坂木司・著

定価:本体670円+税 発売日:2014年11月07日

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