書評

北朝鮮・金正男は反原発主義者だった。
震災の日本に哀悼と感激

文: 「本の話」編集部

『父・金正日と私 金正男独占告白』 (五味洋治 著)

核兵器を地球上からなくさないといけない

 それだけに東日本大震災の影響は気がかりだったようだ。震災が発生した3月11日には、

「貴国の災難被害者に哀悼の意を表わします」

 とのメールを五味記者に送っている。そして、福島第一原発の事故が注目されると、ニュースに釘付けになった。その時に記したのが、冒頭に引用した長文のメッセージである。

 それどころか、3月15日と19日には、原子力発電所と核兵器の存在を明確に否定するメールを記している。核兵器開発を国是とし、アメリカや周辺諸国への恫喝外交を繰り広げてきた国の人間としては、実に驚くべき踏み込んだ内容である。

「自然災害を減らすため、環境保護運動が必要な時期にきていると考えます。
 地球の生態系を保護する運動がとても必要になっているようです。それに核兵器のような、人類を滅亡に追い込むものを地球上からなくさないといけないと考えます。
 日本の原子力発電所で起きた放射能流出事故と関連して、北朝鮮の核施設安全に疑問符をつけた、ある記事を読みました。
 恐ろしい記事でした」

「日本の大地震ニュースを毎日見守っています。
 一日も早く日本の国民が平穏を取り戻せばいいというのが私の希望です。
 前回も指摘しましたが、原子力発電所は地球生態系のために良くないことだと思います。
 緑色運動(筆者注・グリーンピースなどの環境保護運動のこと)が必要な時であり、先進国も風力発電所や水力発電所を指向した方が望ましいと個人的に考えています。
 すでにヨーロッパで多くの緑色運動の団体が、原子力発電所建設反対の運動を行っていることと理解しています。
 地球の生態系を保護することが必要です」

金正男政権の可能性は?

 もしも正男が権力継承者の地位に就いていれば、北朝鮮が核兵器開発を放棄することはもちろん、原子力発電所さえ廃止していたかもしれない。逆に考えれば、そうした開明的人物であるからこそ、父の金正日総書記は、長男を後継者に据えることを断念したのだろう。

 しかし、五味記者は金正男体制の可能性を否定しない。

「経済成長最優先、隣国安定が至上命題の中国にとって、隣国で混乱が発生することは非常に都合が悪い。
 その時、『正男氏擁立シナリオ』が現実味を帯びてくる。これはけっして荒唐無稽な話ではない」

 折しも2012年は、北朝鮮が「強盛大国」になると宣言してきた年。しかし、経済は混乱し、国民は疲弊している。最高指導者の地位に就いた正恩の舵取りが行き詰まれば、何があってもおかしくはない。

父・金正日と私 金正男独占告白
五味洋治・著

定価:1470円(税込) 発売日:2012年1月20日

詳しい内容はこちら