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池上冬樹×瀧井朝世×村上貴史<br />「教養主義からエンタメの時代へ(前編)」

池上冬樹×瀧井朝世×村上貴史
「教養主義からエンタメの時代へ(前編)」

文春文庫の2000年代・2010年代


ジャンル : #ノンジャンル

瀧井 畠中さんの『まんまこと』は女性読者が多そうですね。

池上 今出ている時代小説の七割が江戸が舞台なのは、みんな安定した世界に共感したいんでしょうね。江戸は日本の現代社会の縮図ですから。

瀧井 時代小説と並んで、今活気があるのが警察小説です。横山秀夫さんの文春文庫作品はどれも大傑作です!

池上 横山さんは、現場の事件を刑事たちが解決していく、というそれまでの警察小説の流れを変えた作家ですよ。『陰の季節』(*16)『動機』(*17)で、警務部を舞台に、警察内部で起きた小さな事件を通して、人間の矜持や組織と個人の戦いといった問題を凝縮して描きだしたのが斬新でした。

 

村上 警察小説の作家だと思っていたら、日航機墜落事故を扱った『クライマーズ・ハイ』(*18)を書いて、これもまた素晴らしい。

池上 地元新聞の記者として御巣鷹山の現場も見ているのに、書くことと書かないことを作家としてきっちり選択している。先日亡くなった山崎豊子さんの『運命の人』(*19)は、硬派な法廷劇もある、特定秘密保護法にも通じる社会派小説です。

村上 結局『運命の人』が完結した最後の作品になりました。

池上 10年代に入ると、文庫でも書き下ろしが次第に増えてきます。この分野では、時代小説が佐伯泰英さん、警察小説は堂場瞬一さんがその価値を上げた功労者だと思います。『アナザーフェイス』(*20)の主人公はシングルファーザーなんだけど、刑事の私生活を描いたのも新しかった。

村上 池井戸さんの『かばん屋の相続』(*21)は文庫オリジナルの短編集だし、東野さんが実業之日本社で『疾風ロンド』を書き下ろし文庫で出したり、人気作家たちも戦略的に最初から文庫で刊行することも増えました。

瀧井 文庫オリジナルでもいい作品を出せる、というイメージが定着し て、作家にとっても読者にとっても選択肢が増えて良かったと思います。

*16 松本清張賞受賞作。

*17 日本推理作家協会賞受賞作。

*18 日航機墜落事故が地元新聞社を襲った。組織、仕事、家族、人生の岐路に立たされた男の決断を描く感動長編。

*19 戦後政治の闇に挑んだ新聞記者の戦いと挫折、再生を描く。毎日出版文化賞特別賞受賞。本木雅弘主演でドラマ化。

*20 育児のため捜査一課を外れた刑事総務課の大友鉄が活躍するシリーズ第一弾。仲村トオル主演でドラマ化。

*21 銀行に勤める男たちが出会う様々な困難を六短編で綴る。

 
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