──途中ご執筆にかなり時間がかかっているようでしたが、どこかでぴたりと止まってしまうことがあるんですか?
佐藤 書いているときは、わりあい止まらずに書けるんですけど、ただ、書き出すまでが長いんです。この話にしても、まずドストエフスキーを読むところからやらなきゃなと。
──そうなんですか!
佐藤 『カラマーゾフの兄弟』を読み返さないと、とまず思って。聖書も読みました。全部ではないですけど。ドストエフスキー読んで、聖書読んでという。だから、どこまで役に立っているのかわからないような、時間ばかり食う下準備が色々必要で。で、バッハとかメシアンとかいっぱい聴いて、オルガンの構造とか調べたりもしなくてはならないですし。
──オルガンの構造は難しいですよね。
佐藤 あれはあれで、えらい大変でした。あと、牧師の日常とか、そういうのも具体的に知らなくては書けない(笑)。
牧師の息子であるということに、リアリティが出なくなってしまうので。そういう細部の積み重ねみたいなものが必要になりますね。何を書くときでも、いつもそうなんですけど、今回もたくさん準備が必要でした。
──ドストエフスキーと鳴海くんがつながっている。
佐藤 ドストエフスキーは、高校のころ、わけもわからずに読んだんですが、キリスト教の学校で聖書の授業を受けたり、礼拝に出たりする日常を送っていると、疑問に思ったり反発を覚えることも多かったんです。だから、聖職者の息子である彼がクエスチョンを持ってもいいかなと思ったんですね。で今回、わからなさの頂点である「大審問官」を何とかわかろうと思って、飛ばさずに必死で読みました。
──なるほど。ところで、鳴海くんはすべての音を音符に移し変えられるすごい耳を持ってますね。佐藤さんはそういう絶対音感みたいなものをお持ちだったりしますか。
佐藤 どうだろう(笑)。昔、ピアノを習っているときに、調音はしていたので、そのころは結構正確に音を取れたんです。調音は得意だったんですね。ただ、うちのピアノを全然調律しないで使っているうちに、ものすごくキーが変わってきてしまったんです。それで、無茶苦茶狂ったキーで長年弾いているうちに、音感も滅茶滅茶狂ったんですよ。
──お家のピアノに合わせて……。
佐藤 ずれちゃったんです。不絶対音感みたいになっちゃって。何かね、間違って聴こえてるんです。絶対音感じゃなくて、相対音感というのかな。でも確かに、何か音を聴かせてもらうと、それがドレミファソラシドの何かには聴こえる。だけど、私の場合は狂っているんですよ。正しくない(笑)。
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