「FOUR」のリコーダーは、別册文春編集部のYさんがたまたまリコーダーアンサンブルの経験者で、面白い話を聞かせていただいたので、という経緯です。 この小説には、元は自分の中に別の物語があったんですね。もっとドラマっぽい、架空のストーリーを持っていたんですけど、Yさんの話を聞いていたら、ドキュメンタリーのほうが面白くなってしまって。こういうのは私にはよくあることで、昔書いた『イグアナくんのおじゃまな毎日』もスラップスティックなナンセンス・ストーリーの腹案を持っていたのに、取材先で話を聞くうちに、現実のエピソードのほうに夢中になってしまったことがあって、今回も、それとまさに同じでした。
──「裸樹」は軽音部の物語、楽器はアコースティック・ギターですね。
佐藤 「裸樹」は、成り立ちとして要素が二つあるんです。
中学・高校時代、フォークソングやニューミュージックのようなアコースティック・ギターの弾き語りがとても好きだったんですね。自分でも弾こうと思ってギターも買い、残念ながら弾けるようにはならなかったんですけど、でも一生懸命弾こうとしたり、聴いて感動していたころのことを書きたかった。もう一つは、今の十代の子供たちがかなり厳しい世界で生きていることを、一度は書かなきゃいけないと思っていたということがあります。書きたいというより、一冊の本の中で複数の物語を作る時に、それを避けてしまうのは、書き手としてどこか正しくない気がしたんです。
──「裸樹」は切実な話ですよね。
佐藤 学校は、私が中高校生だったときと比べて、格段にサバイバルな世界になっている気がします。
──原因は何だと思いますか。
佐藤 あまり断定したことを言ってはいけないように思いますが、結局、世間には色んな人がいて色んなことをし ているということを許容する能力が、今の子はわりとない気がするんです。今時は、空気が読めないと生きていけないじゃないですか。でも、空気を読む、なんていう発想はあまりなかったですね、我々のころは。私は、十代のころは、まず自分らしくあるためにはどうすればいいのかということを考えて生きていました。でも、今はそうじゃないかもしれない。集団の中でどれだけ自分がうまくやっていけるか。ポジション取りはどうするか。それは、自分の個性を見出すとい うこととは逆のベクトルなんですよね。「裸樹」の主人公はいじめられた経験がトラウマになって、ビクビクして生きているわけなんですけど、今の子の多くは 自分の居場所があるか、周りに攻撃されたりしないか、敏感でありつづける彼女のような部分を持っていると思います。
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