書評

中国に悪女が多いのはなぜか?

文: 福島 香織 (フリージャーナリスト)

『現代中国悪女列伝』 (福島香織 著)

悪女の日中比較

 こんな美しく才長けてたくましい女であれば、日本人ならば悪女にならずとも十分社会的な成功と女の幸せを達成できただろう。そういえば日本には悪女があまりいない。日本の歴史上の3大悪女といえば北条政子、阿野廉子、日野富子、あるいは淀君か。呂后、武則天や西太后ら中国悪女の代名詞と比べるとなんともスケールが小さい。文革時代の2大悪女といわれた江青や葉群に匹敵する恐ろしい女は日本の近現代史に存在しただろうか。日本で若い女性の間で悪女といえば、美人でセクシーで男を翻弄する可愛い小悪魔だ。単に小国だから、悪女のスケールも小さいのか?

 私はその差は、日本は弱者がそこまで虐げられていないからだと思う。むしろ弱者は庇護するものという常識がある。だが中国は、弱者は徹底的に踏みにじられる社会だ。最も弱い存在は貧しい女と子供。中国の女の多くは強者・男の情けを信じない。信じては足元をすくわれ搾取されかねない。だから強者になるために男を籠絡し、利用しある程度の富と権力と庇護を得てもなお安心感はなく、より強い権力と富を際限なく渇望する。

 統計によれば2012年、汚職で摘発された16万人の中国官僚の95%が愛人を囲っていたという。生まれながらに富も権力も持たない女たちは、自ら進んで「性賄賂」となる。だがその「性賄賂」を使うチャンスのほとんどは、男と男の利権や権力の争いがあってこそ生まれる。チャンスをものにするには、努力や才能だけでも、美貌や肉体だけでもかなわない。壮絶な政治謀略の戦場を捨て身で闘い抜くタフな精神と人並み外れた強い欲望が必要だ。そういう意味で、悪女たちは選ばれし女戦士だ。だが男の権力の失墜とともに終わりを告げたその運命を見れば、権力闘争の生贄とも言えよう。

 本書では10人の典型的な現代の悪女の物語を取り上げた。背後には何10万何100万の悪女たちがいる。中国で女がのし上がるには程度の差こそあれ、悪女の資質が必要なのだ。中国悪女のそのあざとくも切ない人生を透かして、カレードスコープのように見えてくる中国という国の断面図に興味をもっていただければ幸いである。

現代中国悪女列伝
福島香織・著

定価:840円+税 発売日:2013年11月20日

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